“サイレンス”はANCA関連血管炎における自己抗原発現の原因となる重要なエピジェネティック機構である
Nature Reviews Rheumatology
2010年10月29日
Vasculitis syndromes Silence is golden as epigenetic mechanisms are blamed for autoantigen expression in ANCA vasculitis
全身性小血管血管炎患者では、微小血管の炎症および損傷は、循環血中の抗好中球細胞質抗体(antineutrophil cytoplasmic antibody; ANCA)により誘発される好中球の異常な活性化が原因である。活性化した好中球はあらかじめ形成されていた顆粒内容物を放出し、これが 炎症を促進する。ANCA関連血管炎の症状は免疫抑制薬によって抑えることができるが、その根本的な病因は明らかにされていない。今回、Dominic Ciavattaらは、 好中球の転写サイレンシング機序がうまく働かなくなることによって、ANCAの主な自己抗原標的であるプロテイナーゼ3(PR3)およびミエロペルオキシダーゼ(MPO) が不適切に発現することを示した。
PR3およびMPOは顆粒蛋白質であり、その遺伝子は通常、好中球の成熟過程にのみ発現し、健常な成熟好中球では発現が抑制されている。しかし、ANCA関連 血管炎患者由来の成熟好中球には、PR3 およびMPOのメッセンジャーRNAが存在する。これらの転写産物がタンパク質に翻訳されると、自己抗原として利用され る可能性が増加すると考えられる。ANCA好中球(ANCA関連血管炎患者由来の好中球)ではPR3 遺伝子およびMPO 遺伝子が活発に転写されているのか、そしてその 過剰発現はエピジェネティックサイレンシングの失敗が原因であるのか。Ciavattaらはその調査に乗り出した。
著者らは、ANCA好中球由来のPR3 およびMPO では、エピジェネティックサイレンシングに関連するヒストン修飾が健常な対照から得られたものと比べて激減するかを検討 した。ANCA好中球由来のMPO のCpGアイランドはメチル化されていなかった。さらにANCA好中球の2つの遺伝子座で、ヒストンH3の27番目のリジンのトリメチル化量が低 下していた。著者らは、この不全はメチル化の失敗および異常な脱メチル化機序の両者が原因であり、これがANCA関連血管炎の病因の基礎をなしている可能性を示唆した。
Ciavattaは「われわれの研究によって、好中球のエピジェネティックな状態の重要性が強調された。本研究により、ANCA関連疾患患者を対象とした有効性を確認するため に、エピジェネティックな状態を決定する因子に対する治療法を検討すべきであることが示唆される」と話している。
doi:10.1038/nrrheum.2010.168
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