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再生医療:関節表面の自己修復:新しいパラダイムか?

Nature Reviews Rheumatology

2010年12月1日

Regenerative medicine Self-directed articular resurfacing a new paradigm?

病的軟骨や損傷軟骨を修復する組織工学は、既存の技術的問題を克服する新しい細胞ホーミング法の開発によって、革命的に変化するかもしれない。

Lancetの2010年8月号で、自己の体内にある幹細胞を、解剖学的に設計されたスカフォールドに集める方法をLeeらが報告した。このスカフォールドは、細胞が接着 し、マトリックスを産生し、その結果生物学的に完全な関節表面再建を促進するよう作られている。この研究成果は、従来の組織工学の概念を超える重要な進歩で ある。これまでは外来細胞の移植を利用して修復を行っていたが、それは内因性幹細胞数が少なすぎるか、移動距離が長いため、移植細胞と同等の効果が得られな いと考えられていたためである。

整形外科医にとって、関節軟骨損傷は、軟骨再生の手法で治療するには問題が多いことがよく知られている。これらの損傷は頻度が高く、関節鏡検査では約60%の膝関節に存在する2。軟骨は主として無血管性で、常在細胞がコラーゲンやプロテオグリカンに富む密なマトリックス内に隔離されているため、自己修復能力がない。限局的損傷治療の実際のゴールドスタンダード(微小骨折軟骨形成術3)では、軟骨下骨プレートを貫通して出血させ、骨髄間質細胞を軟骨部分に移動させる。しかし、修復の結果作られるのは混合組織であり、本来の硝子軟骨組織には機械的にも生化学的にも劣ることが知られている。

微小骨折軟骨形成術に代わる治療法が研究されてきたが、細胞移植を用いることにより、軟骨の部分的損傷部位に真の硝子軟骨が得られ、軟骨修復分野ですば らしい成功がおさめられてきた。軟骨修復で広く行われている方法は、分化した軟骨細胞4、最近では間葉系幹細胞5などの細胞を、様々な組織から採取し、局所に移 植することである。これらの細胞をベースとした治療は高価であり、費用対効果は必ずしも高いわけではなく、複雑な手技が必要である。さらに、細胞の採取、培養、 そして移植と、多数の手順を必要とする。構造的に優れた軟骨が再生できるにもかかわらず、これらの特徴が細胞をベースとした治療を幅広く臨床の場へ導入するう えで障害となっている。Leeらの最近の研究結果は革新的である。軟骨の外科的損傷を治療できるという臨床的意義があるだけでなく、一連の実験の成果によって 多数の関連分野が恩恵を受ける。

この研究では、光オフセット印刷技術を利用し、必要な細胞が遊走してくるのに適した特別な直径の細網構造をもった生体合性材料を用いて、正確なウサギ大 腿骨頭を作成した(図1)。このスカフォールド全体に、強力な形態形成因子である腫瘍増殖因子β3(TGF-β3)を添加して、生体に常在する内因性幹細胞が遊走し分 化することを誘導した。この方法で再生させた組織は、現在認められている厳格な全ての基準(再生した硝子軟骨の組織特性および細胞外マトリックス内のII型コラーゲンの存在など)に基づいて、硝子軟骨であると明らかにされた。この成功は、外来細胞を追加することなく、完全な関節の表面再生と軟骨下骨層との一体化を効果 的に制御し誘導するわれわれの能力が大きく進歩したことを示している。多くのこれまでの研究では、1つひとつの技術で軟骨再生を試みてきたが、Leeらは明らかに はるか先を行き、硝子軟骨の再生に必要な多数の要素を最適化して成功をおさめた。

この研究に利用された革新的な技術は、工学、整形外科手術、生物材料、再生医療を含むいくつかの異なる分野に渡っている。特筆すべきことは、Leeらが限局的な 欠損を再生しただけでなく、関節表面全体を再生したことである。これによって、スポーツによる損傷から、これまで対処できなかった非常に大きな臨床的ニーズである 変形性関節症にまで応用先が広がった。もともと体内にある細胞集団を細胞ホーミングし、局所に集めることによって軟骨再生プロセスを実現しているため、複雑な外 来細胞をベースとした治療を行う必要がなく、手術室で、臨床医にすぐ利用できる移植片を効率よく提供できる。

Leeらはどのようにこの再生のメカニズムがうまくいくか、その原理を示し、軟骨再生を行うための新しいパラダイムを開いたが、臨床で幅広く受け入れられ る前に解決すべき重要な問題がある。第一に、再生される軟骨組織の質をさらに高めることができる、増殖因子の「カクテル」のような、相乗的な組み合わせ だけでなく、増殖因子の最適な用量についても、さらに評価を行う必要がある。第二に、ウサギモデルは概念実証研究には良い試験材料であるが、荷重の かかる大関節や実際のヒトには適用できない可能性がある。ウサギでの研究は、短期成績は優れているが、6~12ヵ月になると変性を生じるようである。第三 に、理想的な生物材料の組み合わせも重要な成功の要因である。特に関心が持たれるのは、形態形成剤を添加したスカフォールドへ実際どこから細胞が集まってくる かである。これらの細胞は、軟骨下の骨髄と滑膜表層の両方から由来すると考えられる。これらの細胞集団がそれぞれどの程度、修復全体に関与しているのか、そして、 骨と軟骨のどちらかに分化するのに、どのような環境シグナルが必要か、今後解決すべき問題である。

細胞ホーミングによる関節全体の表面再建の成功を証明できたことで、Lee らは、この技術が有望であることを示した。彼らは、医療をさらに飛躍的に改善させる 研究への新たな道を開いたのである。

doi:10.1038/nrrheum.2010.192

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