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疼痛:マクロファージはATPシグナル伝達によりどのように炎症性疼痛を調節するか

Nature Reviews Rheumatology

2010年12月1日

Pain How macrophages mediate inflammatory pain via ATP signaling

マクロファージは、炎症の誘導および寛解に重要な役割を果たしているが、炎症性シグナルから疼痛反応に至る細胞内経路は未だ明らかになっていない。最近のある研究により、P2X4受容体が強力な脂質メディエータであるプロスタグランジンE2の生成を誘導することにより、炎症性疼痛を調節することが示された。

関節炎のような炎症部位での複雑な環境において、プロスタグランジンの生成および疼痛の知覚につながる細胞内イベントを媒介するToll様受容体、サイトカイン受容体、ホ ルミルペプチド受容体などの多様な受容体の相対的な関与や、その正確な性質についてはほとんど明らかにされていない。Ulmannら1は最近の発表で、プロスタグランジンE2 (PGE2)のアップレギュレーションを介した侵害受容に対するATP作動性のカルシウムチャネルP2X4、およびマクロファージでのP2X4の発現の重要性を示している。

P2X4は、細胞外ATPの結合に応答して開口する、7つの陽イオン透過性リガンド作動性イオンチャネルの1ファミリーに属する。P2X受容体ファミリーの機能はすでに疼痛 と関連づけられているが、疼痛が生じる下流機序については理解が進んでいない。しかし、ゼブラフィッシュのP2X4相同分子種の結晶化により、その構造に対する独自 の洞察が得られている。P2X受容体は三量体であり、各サブユニットは2つの膜貫通αへリックスと大きな細胞外ドメインで構成される。ATPは実際のチャネルから離れた細 胞外ドメインの特異的なポケットに結合する。

細胞外ATPの濃度上昇は、ことによると炎症性メディエータとしては過小評価されているかもしれないが、関節炎患者の滑液中に認められる。このため、P2X4を欠いている マウスが疼痛の誘導から保護されたというUlmannらの結果は極めて興味深く、その上流および下流機序に多大な関心が寄せられている。Ulmannらは、ホルマリン、カラゲナ ン、フロイントアジュバント(それぞれ、注射部位の肢に急性化学物質性疼痛、急性炎症性疼痛、亜急性炎症を誘導)を投与されたP2X4受容体ノックアウトマウスで、局所的過 敏性反応が大幅に消失することを初めて示した。予測通り、肢組織のPGE2濃度は、カラゲナンまたは完全フロイントアジュバントを投与された野生型マウスでは数倍増加した。対照的に、この増加はノックアウトマウスでは抑制されたが、PGE2の基礎濃度はほぼ変化しなかった。重要なことに、注射部位の肢組織におけるP2X4受容体の供給源は、主に常在性マクロファージであることが示された。

著者らは、同じくP2X4受容体を発現することが知られる腹腔マクロファージを用いて、細胞外ATPで処理された場合、細胞内カルシウム濃度が大幅に上昇するが、こ の上昇はP2X4ノックアウトマクロファージでは明らかに少ないことを示した。カルシウムは、アラキドン酸カスケードを引き起こす最も重要な細胞内二次伝達物質であ ると考えられ、これにより著者らは、外因性ATPにより刺激されたP2X4ノックアウトマクロファージでは、P2X4の欠損がアラキドン酸とPGE2の放出を実際に阻害することを証明するに至った。この理論と一致して、野生型細胞からのPGE2およびアラキドン酸の放出に及ぼすATPの影響が、P2X4受容体の正のアロステリック調節因子であるイベルメクチンを用いた共刺激によって強くなった。p38MAPキナーゼまたはシクロオキシゲナーゼ-2の阻害因子存在下で野生型細胞の培養を実施した場合、ま たは培養用緩衝液から細胞外カルシウムを除去した場合、PGE2の生合成は抑制された。さらに、侵害受容におけるマクロファージの役割を示す最終的な証拠として、in vitro でATPとイベルメクチンにより刺激された野生型マクロファージまたはノックアウトマクロファージを未処理マウスの肢に注射することにより、移行実験を実施した。その結果、イベルメクチンにより刺激された野生型マクロファージのみが、一過性の疼痛反応を引き起こした。

カルシウムは可変性の細胞内二次伝達物質であるため、P2X4シグナル伝達がどのように選択されるのかという疑問がきっと湧いてくるに違いない。例えば、アラキドン酸カ スケードのみを検討してみると、5-リポキシゲナーゼおよびシクロオキシゲナーゼ経路の両者がカルシウムにより調節されている。それにもかかわらず、これらの急性 および亜急性炎症モデルの炎症性疼痛は、主にPGE2の生成により生じており、サブスタンスP、内在性カンナビノイド、ブラジキニン、アデノシン、一酸化窒素、プロスタサイクリンなどの一般的な疼痛メディエータを介しては生じなかった。一方、P2X4受容体は炎症の起きた肢に疼痛を引き起こすだけでなく、他の役割も果たす可能性があるため、炎症におけるP2X4の役割はさらに検討する価値がある。PGE2は、4種類の特化されたE型プロスタグランジン受容体のそれぞれを介した疼痛以外に多数の下流イベントを引き起こすのである。

Ulmannら1の研究の結果から、マクロファージ特異的と考えられる末梢性P2X4受容体を拮抗することが、関節炎やおそらくは変形性関節症に関連する炎症性疼痛の治療に おいて、極めて興味深い新たな原理となる可能性がある。シクロオキシゲナーゼ-2特異的薬剤であるNSAIDは、疼痛および炎症に有効であるが、消化管に対する一般的副 作用および心血管系に対するまれではあるが重篤な副作用がみられることから、使用が中止されることが多い。このため、新たな抗炎症薬と鎮痛薬が緊急に求められている が、PGE2経路を標的とすればそうした薬剤が得られる可能性がある。Portanovaらによる事例に示されるように、PGE2は疼痛の原因となる。シクロオキシゲナーゼ-ミクロソームプロスタグランジンE合成酵素1経路により生成されたPGE2は、関節炎の実験的モデルでも炎症と疼痛を引き起こしている。プロスタサイクリンと、程度は低いがロイコトリエンB410も、疼痛反応を引き起こす。選択的P2X4拮抗薬はおそらく、細胞質ホスホリパーゼA2阻害薬の効果と同様にアラキドン酸カスケード全体を遮断すると考えられるが、P2X4の細胞発現プロファイルは狭いと考えられるため、推定される有害事象はおそらく限定されるはずである。したがって、組織常在性マクロファージのカルシウム流量を調節することで、選択的にアラキドン酸カスケードをダウンレギュレーションすることは、炎症および同時に発生する疼痛を治療するための有望なアプローチ法であると考えられる。一つの大きな課題は、この特定の受容体の選択的拮抗作用を達成することである。さらに、疼痛知覚の基本的機序についてはいくつかの疑問が残されている。PGE2は脊髄で誘導されると考えられ、同様に、P2X4などのP2X受容体のいくつかはミクログリアやニューロンにより中枢神経系で発現されるが、これは、組織常在性マクロファージ以外の細胞もP2X4経路を介して疼痛知覚を調節している可能性を示唆している。このため、末梢性炎症は感覚神経系の多様なレベルで多くのイベントを開始させ、これがその後疼痛につながっていく。P2X4を阻害することにより、この初期の末梢イベントは抑制される可能性があるが、疼痛と炎症が発現するようになる後半の段階では、もしかすると抑制されないかもしれない。

doi:10.1038/nrrheum.2010.175

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