結合組織疾患:全身性硬化症患者の手指潰瘍の治療
Nature Reviews Rheumatology
2010年11月30日
Connective tissue diseases Treatment of digital ulcers in systemic sclerosis
全身性硬化症(SSc)患者における手指潰瘍は、重大な身体障害を引き起こす可能性がある。しかし、SScの手指潰瘍の治療と予防について検討した臨床試験はほとんどみられない。ある研究で、SSc関連の手指潰瘍の治療において、エンドセリン受容体拮抗薬、ボセンタンの有用性が評価された。
手指潰瘍は、全身性硬化症(SSc)患者によくみられる再発性の合併症である。SSc患者の約半数に認められ、うち75%で非レイノー症状が初めて観察されてから5年以内に、この潰瘍が発生する。EULAR(欧州リウマチ学会)のScleroderma Trials and Research(EUSTAR)のデータベースで報告されたSSc患者3,656例(びまん型SSc患者1,349例、限局型SSc患者2,101例、他の結合組織疾患と併発してSScを有する患者206例)に、高頻度で手指潰瘍が発生していることが明らかになった。全体で、びまん型SSc患者の42.7%、限局型SSc患者の約33%は、治癒までに時間のかかる(3~15ヵ月)手指潰瘍に罹患していた。手指潰瘍はしばしば慢性化し、SScにおける疼痛、手の機能障害、および身体障害の主原因となり、重症患者の場合は入院が必要となる。
手指潰瘍の発生に関与する主な疾患発症機序は、SSc関連血管症による虚血である。他の寄与因子は、炎症、手指硬化による皮膚の線維化、皮膚乾燥、石灰沈着と、二次感 染(骨髄炎、壊疽、敗血症、自然切断、救急外科切断に併発)などがある。1 件の研究では、指切断の発生率は、手指潰瘍患者の患者・年あたり1.2%との報告がある。こういった患者には、長期にわたる続発症を防止するため、速やかに治療を開始しなければならない。しかし、統一された治療法は存在せず、現行の治療選択肢としては、血管拡張薬、鎮痛薬、抗血小板薬による治療、二次感染予防のための局所消毒薬や抗菌薬による治療、そして寒冷気への曝露防止などがある。
Matucci-Cerinicら4は、SSc患者を対象とした虚血性手指潰瘍の治療と予防のためにボセンタンを使用したランダム化二重盲検プラセボ対照研究(RAPIDS-2試験)の結果を報告した。二つのエンドセリン(ET)受容体に対する拮抗薬のボセンタンは、SScの初期イベントの一つとされる血管機能障害に、臨床的に有用な薬剤であると考えられる。SScの内皮傷害の結果、血管拡張物質(例えば一酸化窒素やプロスタサイクリン)の産生が低下する。これにより、血小板凝集が阻害され、炎症や線維化を誘発する特性があるET-1などの血管収縮物質の濃度が上昇する。ET-1は、線維芽細胞と平滑筋細胞に対する強力な分裂促進因子で、基質生合成に強い刺激を与える物質でもあり、SScにおける構造的な血管障害、器官の線維化、および血管閉塞の発生に大きな役割を果たしていると考えられている。
多様な疾患発症機序により手指潰瘍が発生するが、SScの臨床試験で使用される薬の主要クラスは血管拡張薬で、SSc関連血管障害の管理に推奨されている。カルシウムチャネ ル遮断物質であるプロスタノイドとホスホジエステラーゼ5阻害薬(例えばシルデナフィル)は、SScに続発して生じるレイノー現象に有効である。しかし、手指潰瘍はいまだに多くのSSc患者にとって重大な合併症とされている。EULAR–EUSTARによるSSc関連血管障害の管理に関する現行のガイドラインでは、第1選択薬としてジヒドロピリジンカルシウムチャネル遮断薬を推奨している。この薬剤の使用により、SSc関連レイノー現象の症状の改善がみられ、手指潰瘍が治癒した。プロスタノイドも、SScの手指血管障害の症状を改善させ、手指潰瘍治療に有効であるが、投与経路が静脈内注射であるため日常的な診療での使用には限界がある。2009年に発表されたEULARのSSc治療に関するガイドライ ン8では、カルシウムチャネル遮断薬とプロスタノイド療法に不応であったSSc患者の多発性手指潰瘍に対し、ボセンタンが推奨されている。
ボセンタンおよび他のET受容体拮抗薬(sitaxentanなど)については、これらの投与によりSSc手指潰瘍の治療が成功したという報告が過去にあるものの、手指潰瘍の治 療と予防を扱った質の高いランダム化比較対照試験の数は十分ではない。このような科学的な格差をきっかけとして、RAPIDS-1試験10とその後のRAPIDS-2試験4が開始された。RAPIDS-1試験では、びまん型または限局型のSScを有する患者122例が、ボセンタン(79例)またはプラセボ(43例)の投与を受ける群にランダムに割り付けられ、その後16週間の追跡調査を受けた。試験への登録時には、ボセンタン群では67.1%、プラセボ群では55.8%の患者が、手指潰瘍に罹患していた。ボセンタン治療は、新規手指潰瘍発生率の48%の低下と関連し、特に多発性の手指潰瘍を有していたびまん型SSc患者において低下が顕著であった。また、ボセンタン治療の結果、手機能の改善も認められた。
Matucci-Cerinicら4によって報告されたRAPIDS-2試験には、欧州と北米の41施設が参加した。この大規模研究は、SScの虚血性手指潰瘍の治療と予防それぞれについて、ボセンタンの有効性を詳細に評価する目的でデザインされた。全体として、SSc患者188例が、ボセンタン(98例)またはプラセボ(90例)の投与を受ける群にランダムに割り付けられた。RAPIDS-1試験の組み入れ基準とは異なり、RAPIDS-2試験では、過去に少なくとも1ヵ所以上の手指潰瘍を経験したことのある患者が組み入れられた。また、RAPIDS-2の追跡調査期間は、RAPIDS-1より長い24週間とされた。ET-1の活動性阻害は手指潰瘍の治癒に影響を及ぼさなかったが、新たな手指潰瘍の相当数の低下が、ボセンタン群の患者の30%で観察され、多発性の指潰瘍を有する患者において、より顕著な効果がみられた。ボセンタン治療中の主な有害事象は(日常の臨床診療で予想される通り)トランスアミナーゼの上昇で、RAPIDS-1試験の患者の14%に、またRAPIDS-2試験の患者の12.5%にこの上昇がみられた。下痢と末梢浮腫もこれらの患者で観察され、肺炎と心室性頻脈といった重篤な合併症が1症例ずつ報告された。
RAPIDS-1とRAPIDS-2の両試験の結果から、プラセボと比較して、二つのET受容体に対する拮抗薬ボセンタンによる治療の方が、ET-1の活動性遮断により、SSc患者の新規 手指潰瘍発生率が減少することが示される。この結果は、SScに合併する手指潰瘍の病態生理学におけるETの重要性と、EULAR–EUSTARの推奨事項の中で概説されているよう に、SSc患者の治療アルゴリズムにおけるET受容体拮抗薬の役割、とくにボセンタンの役割を強調している。しかし、RAPIDS-2の結果からも、この分野における追加的な調査や臨床試験が促進されていくべきであり、またそれらの試験は、手指潰瘍の治癒だけでなく、SSc患者の全体的なアウトカムを改善する血管拡張併用療法の効果も対象にすべきである。
doi:10.1038/nrrheum.2010.207
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