Research Highlights

臍帯幹細胞―RAに対する新たな治療法の誕生か

Nature Reviews Rheumatology

2011年2月2日

Rheumatoid arthritis Umbilical cord stem cells—the birth of a new treatment for RA?

北京大学人民医院(Peking University People’s Hospital)のZhanguo Liらのチームが行った研究によれば、ヒト臍 帯組織由来の間葉系幹細胞(UC-MSC)は、関節リウマチ(RA)の治療に有用となる可能性がある。ヒト細胞と関節炎の動物モデルを用いたLiらの研究では、UC-MSC が、in vitro で線維芽細胞様滑膜細胞(fibroblast-like synoviocyte:FLS)の炎症作用を抑制するとともに制御性T(TREG)細胞の増殖を誘導し、in vivo ではマウスのコラーゲン誘発関節炎を軽減することが示されている。

MSCの最も一般的な供給源である骨髄に由来する幹細胞(BM-MSC)が、免疫抑制作用を有する可能性は、いくつかの研究によって示唆されているが、RAの治療における これらの細胞の有効性について、これまでの研究で報告された結果は一貫していない。一方、UC-MSCのRA治療法としての可能性については、現時点でほとんど明らかになっ ていない。しかし、このような知識の欠如にもかかわらず、UC-MSCはその様々な特性から、骨髄由来幹細胞より有利と考えられる点がいくつかあることが示唆されている。例 えば、臍帯は生後に廃棄され、臍帯組織の採取は非侵襲的である。さらにUC-MSCは、他の供給源に由来するMSCに比べ、増殖率が高く、自己再生能が高い。

Liらは、最初に出生後のヒト臍帯からMSCを単離し、in vitro で増殖させた。増殖した細胞は、形態的に線維芽細胞に類似し、機能的には、培養液中で骨形成系列と脂肪生成系列に分化する能力を有することが明確に示された。

UC-MSCの滑膜細胞における免疫抑制能を検討するために、膝関節置換術が予定されたRA患者からFLSを単離した。単離されたFLSの増殖は、腫瘍壊死因子(TNF)による 刺激に影響を受けることが示された。in vitro でUC-MSCは、5日間の培養中4日目に添加された場合でも、TNF誘発性のFLS増殖を用量依存的に抑制した。この抑制作用は、培養液に1-MT(インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ[IDO]阻害薬)を添加するか、インターロイキン(IL)-10または腫瘍増殖因子(TGF)-β1に対する抗体を添加することによって、打ち消すことが可能であった。このことから、観察されたようなUC-MSCを介するFLSの抑制には、IDO、IL-10、TGF-β1が重要な役割を果たすことが示される。

細胞遊走アッセイにおいては、UC-MSCとの共培養により、細胞同士を接触させた培養系とトランスウェルを用いた培養系の両方で、FLSの侵襲的挙動が抑制された。FLSの侵襲 性表現型のメディエーターであるマトリックスメタロプロテアーゼ9の分泌も、両培養系において減少した。注目すべきことに、トランスウェル遊走アッセイでは炎症誘発性サイトカインIL-6の発現がUC-MSCによって抑制されたが、細胞間接触培養系ではそのような抑制はみられなかった。

増殖と侵襲的挙動の抑制に加えて、UC-MSCはRA患者由来の免疫細胞の炎症反応も抑制できることが、in vitro試験によって示された。T細胞の増殖は、UC-MSCによって用量依存的に抑制された。さらなる実験により、T 細胞に対するこの抑制作用は、主にTGF-β1、一酸化窒素、プロスタグランジンE2に依存することが明らかになった。UCMSCはさらに、T細胞によるTNF産生を抑制し、TREG細胞の増殖を促進した。

Liらは、コラーゲン誘発関節炎(CIA)のマウスモデルを用いて、in vitro で認められるヒトT細胞とFLSに対するUCMSCの免疫抑制作用が、in vivoでの治療効果に変換されることを示した。UC-MSCをマウス(疾患発症後)に注入すると、全身的にCIAの重症度が低下した。溶媒のみ、RA患者由来の死滅したヒトFLS、あるいは関節炎のない人のFLSでは、そのような効果は認められなかった。屠殺したマウスの組織学的検査により、UC-MSC投与によって組織損傷が予防されたことが示された。それと比べて対照マウスでは、パンヌス形成、炎症性細胞浸潤、重度滑膜炎、骨びらんが認められた。

RA患者由来のFLSに対するUC-MSCの作用と一致して、CIAマウスでは、UC-MSC投与によって炎症反応が軽減され、TNF産生とIL-6の減少、IL-10の増加などが認められた。 さらに、T細胞集団が、自己反応性の1型ヘルパーT(TH1)細胞から、IL-4を産生するTH2細胞に変化した。TREG細胞 の誘導も、投与マウスの脾臓と末梢血における同細胞の増加によって示された。しかし、投与マウスにおける遅延型過敏反応の発生から、T細胞プライミングが起こった可能 性が示唆され、UC-MSCの炎症抑制作用の根底には複雑な機構があることが示されている。

UC-MSCの明らかな免疫抑制作用と治療上の可能性を考えると、今後の研究では、RAなどのヒト疾患におけるこれらの細胞の機構と臨床応用の両方を検討する必要がある。

doi:10.1038/nrrheum.2010.215

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