Year In Review

骨粗鬆症の2010 年:骨の形成と破壊の(安全な)予防

Nature Reviews Rheumatology

2011年2月2日

Osteoporosis in 2010 Building bones and (safely) preventing breaks

種々の研究領域において骨粗鬆症研究に豊かな実りが得られた1年の結果が、討論に決着をつけるというよりむしろ討論を引き起こそうとしている。骨の健康の起源から確立された経験に基づく治療法の利用まで、新しい知見に関する議論が、2011年以降行われていくであろう。

骨粗鬆症性骨折は、公衆衛生上の大きな負担となっており、年間費用は英国だけで推定21億ポンドにのぼる。2010年の研究は、3つの領域を中心として行われた。すなわち、最善の骨塩量増加に影響を与えピークからの骨量減少促進を予防する因子、骨量減少を遅延させる作用を有する薬剤、そして骨粗鬆症の薬剤治療で生じ得るリスクである。本稿では、これらの各領域において影響力の大きい研究を取り上げる。

我々は、乳幼児期の成長と成人期の骨量増加における関係の概要を明らかにしたグループの1つである。Wangらが、簡潔な論文で、この関連性をさらにはっきりと説明して いる。フィンランドの少女236例に関するデータセットを利用して、成人の骨格の性質が決まる幼児期の段階を正確に指摘したのである。利用したデータは、在胎期間、誕生時 と6ヵ月齢および12ヵ月齢時の頭踵長(CHL)と体重、3、5、10、13、15、18歳時の身長と体重であった。さらに彼らは、母親199例と父親118例の骨量測定(二重エネルギーX線吸収測定法、橈骨と脛骨の末梢定量CTなど)も利用した。両データについて家族78組の両親と娘のデータが得られた。これらのデータから、Wangらは、誕生時のCHLと体 重は、18歳時の骨密度測定値とはあまり、または全く関係ないが、6ヵ月齢時のCHLは、思春期と18歳時の身長と骨密度(BMD)(r[相関係数]=0.24~0.56、P <0. 001)、および両親の身長と骨密度測定値(r=0.15~0.37、P <0.05)と相関していることを明らかにした。これらの6ヵ月で確立される家族性の相関関係は、成人期にも引き続き認められ、思春期と18歳時の少女の骨密度測定値は、その両親の値と相関していた(r=0.32~0.43、P <0. 01)。これらのデータは、このテーマに関する最近のメタアナリシス3を見事に追認しており、成人期の骨量獲得には出生後早期の環境が重要であることを強く示している。メタアナリシスでは、子宮内環境が成人期の骨の大きさ、形状、強度に顕著な影響を与えることが示されたが、容積骨密度との関連性はあまり顕著ではなかった3。容積骨密度は、生後6ヵ月間に最も強く影響を受けると考えられる2。しかし、乳幼児期において、正確にいつどのように成人期の骨の健康に影響を与えるのかは、今後検討すべき重要な領域である。

骨粗鬆症発症リスクを理解することは、すでに骨粗鬆症になっている人にとっては非実際的である。骨粗鬆症患者に対して最もよく処方されている治療法は、ビスフォスフォ ネート経口投与である。事実、2005年には70歳を超える英国人女性の約10%が経口ビスフォスフォネートの処方を受けた。しかし近年、経口ビスフォスフォネート使用患者 における顎骨壊死および非定型的大腿骨骨折リスクに関する懸念が生じている。American Society of Bone and Mineral Researchは、これらのリスクに関するガイダンスを発表した。しかし今年、2報の論文で、ビスフォスフォネート経口投与に伴うもう1つのリスク、すなわち食道癌リスクが検討された。これらの研究では双方とも、英国の一般診療研究データベース(GPRD)を利用していたが、導き出した結論は全く違っていた。

第1の解析では、Cardwellら8がコホート研究を行い、1996年1月1日~2006年12月31日までに経口ビスフォスフォネートの処方を受けた被験者を募集し、1日量(低用量、 中用量、高用量)に基づき被験者を分類した。指標日に40歳未満であるか、過去3年間に癌と診断された被験者は除外した。各ビスフォスフォネート使用者を1人の対照者と マッチさせた(全コホートは92,072例から構成され、半数が対照者)。このコホートは、ビスフォスフォネート使用にかかわらず、同年齢・性別の一般診療受診者から無作 為に選択した。したがって、癌関連骨粗鬆症に対してビスフォスフォネート投与を受けている患者は除外しなかった。Cardwellらが、除外すれば対照群の癌リスクを人為的に低下させることになると考えたためである。対照者として選択された場合は、症例群の患者を症例として移動させた。関与した一般診療受診者は、食道癌と胃癌の発症率に関す る情報を提供し、得られる場合は、BMIと飲酒、喫煙に関するデータも提供した。これらの交絡因子となる可能性のある因子に関する情報は、67%の被験者では欠損していた。 追跡調査期間が6ヵ月未満の被験者を除外した後、4.5年足らずの平均追跡調査期間において、Cardwellらは、交絡因子での補正前後のコホート間の食道癌と胃癌の統 合リスクに差がないこと(ハザード比0.96、95% CI 0.74~1.25)、および用量相関性も認められないことを明らかにした。ハザード比の信頼区間に基づき、彼らは以下のように結論づけた。ビスフォスフォネート使用との明確な関連性はないが、それぞれのタイプの癌発症の統合リスクの中等度(<30%)の増加は否定できず、同様に保護効果(20~25%)がある可能性もある。

関連した研究で、Greenら9は、同じデータセットにコホート内症例対照研究デザインを適用し、かなり異なる結論を導き出した。各症例に対照者を5例マッチさせたため、彼ら の解析の検出力は高かった。食道癌患者2,954例、胃癌患者2,018例、大腸癌患者10,641例、マッチさせた対照者合計77,750例を解析し、平均観察期間は7.5年であった。可能な場合は、BMIと飲酒、喫煙に関しても評価した。1回以上ビスフォスフォネートの処方を受けた患者の食道癌相対リスクは、対照者と比較して1.30(95%CI 1.02~1.66)であった。Cardwellらの結果とは対照的に、このリスクは処方回数が増えるごとに顕著に増加した。3年を超えて治療を受けている患者(多くは5年間)は、相対リスクが2.24(95%CI 1.47~3.43)であった。しかしながら、Cardwellらの研究と同様に、個々のビスフォスフォネートによって食道癌リスクが過剰に高くなることはなく、ビスフォスフォネート使用者における大腸癌リスクの増加のエビデンスは認められなかった。

これらを合わせると、これらの研究は、ビスフォスフォネートの有害作用について重要な情報を提供しているが、これらの矛盾した結論は、増えつつある使用者にほとんど安心 感を与えないであろう。現時点ではどの診断バイアスや追跡調査期間が結果に影響を与えているのかは明らかではない。しかしさらなる試験が行われていることは確かであり、 これらの試験の知見が切望される。

確立されている治療法に長期的なリスクが伴う可能性があることが強く示されていることから、本稿で最後に選んだ論文は非常に重要である。スクレロスチンは、骨細胞が 分泌する蛋白質であり、造骨細胞の機能を阻害し、そのために骨形成を阻害する。Padhiらは、抗スクレロスチンモノクローナル抗体(AMG 785)の第I相試験の結果を報告 している。この報告により、この薬剤の臨床前試験で認められた骨代謝を臨床試験で再現できたことが初めて示された。二重盲検プラセボ対照試験で、様々な用量のAMG 785を単回皮下投与または静脈内投与したところ、生じた治療関連の重篤な有害事象はわずか1件のみであり(非特異的肝炎)、死亡や試験中止を伴うことなく消退した。骨 保護効果は、骨形成マーカーの用量相関性の増加と、それに伴う骨吸収マーカーの用量相関性の低下により明示された。抗スクレロスチン療法はプラセボと比較して、85日 目の骨密度を、腰椎で最大5.3%、全股関節で2.8%増加させた。最高用量群の被験者6例がAMG 785に対する抗体を産生し、2 例では中和作用がみられたが、抗スクレロス チン療法の機能と安定性には影響がなかった。以後の相の試験では、AMG 785が最初の有望性を維持できるかどうかを評価する予定である。

まとめると、2010年は、骨粗鬆症研究に豊かな実りが得られた年であった。本稿で紹介した論文は、今後も続くと考えられる議論の主題となろう。

doi:10.1038/nrrheum.2010.227

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