治療: 脾臓チロシンキナーゼ阻害薬―RAの新しい治療法か
Nature Reviews Rheumatology
2011年2月8日
Therapy Spleen tyrosine kinase inhibitors—novel therapies for RA?
DMARD療法にもかかわらず活動性の関節リウマチ(RA)を有する患者において、脾臓チロシンキナーゼ阻害薬による治療は、生物学的製剤など他の薬剤の臨床試験で得られたのと同様の奏効率を達成している。この新たな薬剤は、現行の治療選択肢においてどのような位置づけが適切であろうか。
New England Journal of Medicine に発表された論文で、Weinblattら1は関節リウマチ(RA)の治療に経口脾臓チロシンキナーゼ(Syk)阻害薬fostamatinibを用いて有望な結果を報告している。これは、RA治療に新たな道を拓くものである。Weinblattらは多施設共同無作為二重盲検試験を実施して、この薬剤の有効性の分析を行った。登録された患者457例は、DMARDにメトトレキサートまたは生物学的製剤の単独および両者併用の長期療法にもかかわらず活動性関節リウマチ(28関節の活動性スコア[DAS28]の平均が6.1)を有しており、平均罹患期間は9年であった。6ヵ月間の治療ののち、fostamatinib 100mg 1日2回と150 mg 1日1回の投与を受けた群では、プラセボ 群と比較して、米国リウマチ学会の基準による20%の改善(ACR20)を達成した患者が有意に多かった(fostamatinib群でそれぞれ67%と57%、プラセボ群で35%、ともにP <0. 001)。6ヵ月後のACR50とACR70の達成率も、両治療群ではプラセボ群と比較してかなり高く、DMARDにより十分な反応が得られなかった患者を対象とした生物学的製剤の臨床試験における達成率と同等であった(本誌ウェブサイトのSupplementary Table 1参照)。
過去に生物学的製剤により十分な反応が得られなかった患者(コホートの15%)では達成率が低かったにもかかわらず、このサブグループにおいてACR20を達成した患者は、fostamatinib 100 mg 1日2回群と150 mg 1日1回群ではプラセボ群より有意に多かった(それぞれ43% vs 14%、P =0.04、および46% vs 14%、P =0.02)。6ヵ月後の寛解(DAS28<2.6)の達成率は、プラセボ群と比較してfostamatinib群で高く(150 mg 1日1回群で21%、100 mg 1日2回群で31%、プラセボ群で7%、それぞ れP =0.003およびP <0.001)、また、fostamatinib療法は忍容性が高く、有害作用は少なかった(下痢、悪心が多かった)。fostamatinib 100 mg 1日2回群では、疲労尺度(Functional Assessment of Chronic Illness Therapy[FACIT])と身体機能(Medical Outcomes Study 36-item short-form health survey [SF-36]の身体領域の4 項目)の改善もみられた。
Weinblattら1の研究の肯定的な結果にもかかわらず、いくつかのアウトカムにおけるfostamatinibの影響に関する情報が欠けている点で、この試験には限界がある。そのような情報としては、RAのX線上の進行率、骨量に関するベネフィットの有無、24週以降の治療効果がある。さらに、これまでのRAに対するfostamatinibの研究では追跡調査期間が限られていることから、安全性について確実な結論を出すことはできない。
これらの限界に加えて、Genoveseらの研究では主要アウトカムが達成されなかった。この研究では、生物学的製剤(TNF阻害薬およびそれ以外)により十分な反応が得られ なかった患者229例でfostamatinibの有効性が評価された。患者は経口fostamatinib 100 mg 1日2回(n =146)またはプラセボ(n =73)の投与に無作為に割り付けられた。有効性と安全性の評価は、臨床パラメータと手および手首のMRIにより3ヵ月後に行われた。主要エンドポイントは3ヵ月後のARC20達成率とされた。治療群とプラセボ群の間で、3ヵ月後にACR20、ACR50、ACR70を達成した患者の割合に有意差は認められなかった。DAS28スコアの変化の平均も両群で同等であった(1.62 vs -1.27、P =0. 15)。f ost amati ni b群では、3ヵ月後にC反応性蛋白および赤血球沈降速度の値にプラセボ群と比較して有意な変化を認めた(それぞれ-6.87 ±29 mg/L vs +3.62±18 mg/L、P =0.003、および-8.90 ±21 mm/h vs +1.41±25 mm/h、P =0. 004)。さらに、滑膜炎スコアの平均(-0.5 vs +0.4、P =0.038)および骨炎スコアの平均(-0.2 vs +1.2、P =0.058)は、プラセボ群よりもfostamatinib群の患者の方が有意に大きかった。ベースラインのC反応性蛋白およびMRI上の活動性(滑膜炎)が高値の患者サブグループでは、プラセボ群よりもfostamatinib群の方がACR20達成率が高かった(42% vs 26%、P =0. 05)。
これらの試験からは、RAに対する新規薬剤が本当に必要なのかという問題も提起される。現在のところ、RAに対するファーストラインおよびセカンドライン療法として8種類の生物学的製剤が承認されている。このうち5種類(アダリムマブ、certolizumab、エタネルセプト、ゴリムマブ、インフリキシマブ)はTNFを標的とし、3種類(アバタセプト、リツキシマブ、トシリズマブ)は、それぞれT細胞の共刺激、B細胞、インターロイキン(IL)-6を標的としている。これらの薬剤により、リウマチ専門医はすでに広い選択肢を手にしており、この十年間でRAの治療が劇的に変化した。これらの生物学的製剤は、滑膜炎を大きく改善するもので、X線上で検出できるRAの進行を遅らせ、さらには阻止する可能性がある。しかし、既存の生物学的製剤は、患者が反応を示さなかったり有害作用が発現したりした場合には、他の薬剤に変更したり投与順序を変えたりすることができるとはいえ、安全性に関する懸念を払拭できない。こうした問題としては、おもに感染症(結核やその他の日和見感染)のリスク増加がある。加えて、生物学的製剤は費用がかかり、皮下投与や静脈内投与のために不快感が生じる。まとめると、これらの要因が示しているのは、新しく、より安価で、経口投与ができ(患者にとって受け入れやすい)、有害作用の少ない薬剤が必要とされているということである。fostamatinibのようなSyk阻害薬は、これに答えるものとなるであろうか。
この問題に取り組むためには、まず健康な状態と疾患におけるSykの役割について考える必要がある。Sykは、細胞内のシグナル伝達に関与する細胞質チロシンキナーゼであり、 これらの伝達は細胞表面の蛋白質(Fc受容体、インテグリン、CD74など)から発せられる。この酵素は様々な種類の細胞におけるFcシグナル伝達に関わっている。細胞には、白血球、肥満細胞、マクロファージ、赤血球、血小板、NK細胞などの造血細胞が含まれる。Sykはまた、B細胞やT細胞の活性化にも関与しているが、造血細胞以外の細胞、例えば破骨細胞、滑膜細胞、肝細胞、線維芽細胞、上皮細胞などでは、その役割はそれほど大きくない。したがって、Sykは、RA6や全身性エリテマトーデスを含めた様々な自己免疫疾患の病理発生における重要な酵素であると考えられる。
このような生物学的機序を念頭におくと、SykはRA患者にとって少なくとも2つの点でベネフィットをもたらす可能性がある。すなわち、サイトカイン(TNFとIL-1)が関与する炎症反応を、T細胞機能の阻害を介して低減すること、および骨びらんの発現と進行を、破骨細胞機能の阻害を介して阻止することである。コラーゲン誘発関節炎のマウスモデルを用いて、Pineらは、fostamatinibまたはR406(fostamatinibはR406のプロドラッグ)の投与によって、臨床的な関節炎の重症度とその進行、骨びらんの発現、パンヌス形成が抑制されることを示した。これらのベネフィットの評価は、X線撮影、マイクロCT、後肢の組織病理学検査によってそれぞれ行われた。炎症反応に関 与する細胞(B細胞を含む)へのSykによる活性化を阻害することによりどのような効果が得られるかは明らかでない。乳癌細胞におけるSykの発現亢進は腫瘍の代謝を抑制することから、Riveraらは、Syk阻害薬を投与された患者には綿密なモニタリングを行う必要があること、また乳癌の家族歴を有する患者ではSyk阻害薬の使用を避けるべきであることを示唆している。
Syk阻害薬だけでなく、RAの治療に他のチロシンキナーゼの阻害薬を用いることへの関心が高まっている。例えば、いくつかの進行中の第II相試験では、tasocitinibやVX-509などのヤヌスキナーゼ3阻害薬が検討されている。他の疾患に対するチロシンキナーゼ阻害薬の研究(慢性骨髄性白血病患者に対するイマチニブなど)によるデータから、こうした薬剤が長期(5年超)にわたり良好な安全性プロファイルを有することが示されている。
結論として、Sykや他のチロシンキナーゼを標的とする治療は、RA治療の新しい方法である。これらの薬剤については、生物学的製剤と併用した場合の効果や、臨床的な疾患活動性およびX線上の進行に対する影響、およびその長期安全性プロファイルが示されれば、そのRA治療における真の役割がより明らかとなるであろう。
doi:10.1038/nrrheum.2011.8
レビューハイライト
-
5月1日
液体とガラスに隠れた、重要な構造的特徴を明らかにするNature Reviews Physics
-
4月1日
人工次元におけるトポロジカル量子物質Nature Reviews Physics
-
3月25日
キタエフ量子スピン液体のコンセプトと実現Nature Reviews Physics
-
2月28日
次世代粒子加速器:国際リニアコライダー(ILC)Nature Reviews Physics
-
1月18日
磁性トポロジカル絶縁体Nature Reviews Physics