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薬理遺伝学:RAに対するTNF阻害療法-個別治療に向かっているか

Nature Reviews Rheumatology

2011年2月4日

Pharmacogenetics Anti-TNF therapy in RA—towards personalized medicine?

腫瘍壊死因子阻害療法に反応しない関節リウマチ患者は少なくない。大規模な全ゲノム相関解析により、治療反応性を左右する新たな遺伝因子が明らかにされた。この結果から、個別治療の基盤が形成される可能性がある。

腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬は関節リウマチ(RA)患者にとって有益性が高く、臨床診療で広く用いられている。しかし、これまでの臨床経験から、全ての患者がTNF阻害療法に十分な反応を示すわけではないことが明らかになってきた。現在のところ薬剤の有効性に関する信頼できる予測因子が存在しないため、これらの薬剤は経験的な「試行錯誤」に基づいて使用されている。RAの特徴である関節破壊、TNF阻害療法に伴う有害作用のリスク、およびこの種の治療にかかる高額の費用を考えると、それぞれの薬剤に対する個々の患者の反応が予測できることは、極めて望ましい。遺伝子マーカーは、TNF阻害薬から最も高い利益を得られる可能性のある患者を特定するうえで有用であろう。PlantらはRAに関するこれまでで最大規模の遺伝子関連研究の結果をArthritis & Rheumatism に報告している。この研究にはRA患者1,286例が組み入れられたが、うち566例についてはTNF阻害療法に対する反応性予測因子を明らかにするための全ゲノム相関解析(GWAS)を行った。

薬剤に対する反応には、薬物動態、薬力学、および代謝といった多面的な要素があるため、ひとつで反応を予測する因子を特定することは雑しく、複数のバイオマーカーが必要 と考えられる。臨床的な視点からみれば、メトトレキサートまたはNSAIDの併用、投与前の障害が軽度であることは、治療反応性改善の予測因子として特定されているが、一方で、女性であることや喫煙は治療反応性不良の予測因子である。TNF阻害療法を受けたRA患者は全て、臨床的反応の有無にかかわらず、分子レベルでTNF阻害応答を示していることから、他の因子の関与が示唆される。Hueberらは、エタネルセプト療法に対する反応を予測できる因子として、血清中の蛋白バイオマーカーを特定しており、いくつかのグループは反応予測に有用と考えられる遺伝子発現を報告している。しかし、治療反応に影響を及ぼす遺伝子多型の特定は、これまでのところ候補遺伝子の予測が行なわれている段階である。全体的にみれば、これまで特定されたマーカーの予測能力は低度から中等度であり、結果は必ずしも一貫しておらず、これらの結果は個別に検証を行う必要がある。

Plantらは全ゲノム相関解析の手法を用いた。これは、ゲノム全体を対象に何千もの変異を検討するものであり、十分な検出力があれば関連を明らかにできる可能性が高い。Plantらは、エタネルセプト、インフリキシマブ、アダリムマブのいずれかの治療を受けたRA患者566例(英国Wellcome Trust Case Control Consortiumの登録患者に由来)の一塩基多形(SNP)459,446個のGWASを始めとして、いくつかの段階を経る関連解析をデザインした。このGWASは、投与開始から6ヵ月目までに28関節の疾患活動性スコア(DAS28)で0.6単位以上の差を、P <10-3の統計学的有意差をもって識別する90%超の検出力を有している。研究の次の段階では、GWASで特定された遺伝子配列をもとに、対象を2つの独立したコホート(それぞれ379例、341例の患者から成る)に分けた。続くメタ解析は全コホートの結果を対象として行われ、7つの遺伝子座における変異がTNF阻害療法による反応と関連するという結果が得られた。様々な臨床的・人口統計学的因子(ベースラインのDAS28、健康評価質問票[HAQ]スコア、性別、 併用DMARD療法、リウマチ因子陽性、喫煙状態など)を考慮した予測能の解析では、これらの遺伝子座を組み入れると、DAS28スコアの絶対変化の分散が15%から20%に増加した。

驚くべきことに、TNF阻害薬の作用機序が異なる(インフリキシマブとアダリムマブはTNFのみを標的とするのに対して、エタネルセプトはTNFとリンホトキシンαの両方を阻害 する)にもかかわらず、それぞれの薬剤に特異的なSNPマーカーとの相関は認められなかった。遺伝的関連性の特徴については、5個のSNP(うち3個はコホートによって逆の影響を示した)はマッピングにより遺伝子間の領域に存在することが確認された。最も強い影響が認められたのは、遺伝子PDZD2とEYA4 にマッピングされた2個のSNPであった。マイナー対立遺伝子のEYA4(rs17301249)はTNF阻害療法に対する反応改善と関連した(相関係数-0.27、P =5.67×10-5)のに対し、マイナー対立遺伝子のPDZD2(rs1532269)は反応低下と関連していた(相関係数0.20、P =7.37×10-4)。この研究で特定されたSNPは、これまでにTNF阻害療法反応性と関連する遺伝子座に対応するものではなかった。この研究の結果は、また、RA感受性遺伝子(PTPN22 やHLA-DRB1)と治療反応性との間に関連が認められなかったという以前の結果7を裏づけるものであった。

今回得られた新知見の科学的重要性は、治療反応状態を規定する分子経路が特定できた可能性があることである。染色体6q23.2上に位置するEYA4 は、インターフェロン(IFN)-βとCXCケモカインリガンド10の発現を調節する核内因子をコードする。この関連は、TNF阻害薬がIFN応答に関与する遺伝子の活性を調節すること、また治療により誘導された遺伝子活性の変化が臨床結果と関連している8点が一致している。したがって、EYA4 はIFN応答とTNF阻害による効果との関連を説明するものと考えられる。遺伝子PDZD2 はインスリン分泌に作用すると考えられており、RAで観察されるインスリン濃度と炎症活動性との相互調節作用の遺伝的基盤となっている可能性がある。これらの結果は、個々のデータセットの関連性を分析することが、治療反応性に関与する重要な経路に関連するデータの断片をつなぎ合わせることにつながることを示し、薬物の効果発現機序に関わる遺伝子の相互作用と、その分子経路の解明の手助けとなる。これはすなわち、特定の生物学的経路に関わる遺伝子変異を累積して研究することが、協調して作用する遺伝子変異を特定する上で有用となる可能性があるということである。

Plantらによる研究の結果は科学的に重要なものであり、リウマチ研究における薬理遺伝学の潜在力を示すものではあるが、TNF阻害薬の個人的な治療計画を立てるために遺 伝子配列を決定することに対する臨床的意義については疑問が呈されるかもしれない。我々が直面している問題は、一連のSNPがTNF阻害薬による反応と強く関連し得るとして も、この関連はレスポンダーとノンレスポンダーの効果的な区別を必ずしも保証するものではなく、それゆえ臨床的な有用性に欠ける可能性があることである。治療反応性に基づいて個人を分類する精度を評価すること(例えば、受信者動作特性曲線による分析など)は、真陽性と偽陽性のアウトカムを区別するうえで有用となろう。さらに、著者らはDAS28の変化を定量的特性として用いたが、例えばDAS28の変化について特定のカットオフ値を設定して患者をレスポンダーとノンレスポンダーに分類するなど、二分法を用いた方がより説得力があるかもしれない。複合スコア指標を用いることには問題があるというのは、発症後長期間を経た患者では、個々の要素(関節腫脹や圧痛など)は不可逆的障害の結果である可能性があり、それゆえに改善し得ないことが考えられ、全体的な反応スコアにマイナスの影響を及ぼす可能性があるためである。したがって、治療による臨床的反応の判定基準は、注意深く評価しなければならないし、明らかに客観的な評価指標(炎症の生物学的評価指標としての赤血球沈降速度など)を用いることを検討する必要がある。

しかしながら、この研究はRAにおけるTNF阻害療法への反応に強く関連する遺伝子変異についての洞察を提供するものである。TNF阻害療法による反応の遺伝的基盤をさらに解明するため、またこの研究で特定された遺伝子座の予測マーカーとしての役割を検証するためには、さらなる研究が必要である。これらのデータを統合して多領域にわたる複合 予測スコアを開発することは、TNF阻害療法に対するレスポンダーとノンレスポンダーの臨床に十分役立つ区別を可能にする可能性がある。

doi:10.1038/nrrheum.2011.13

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