小児リウマチ学:新しいJIA治療ガイドの長所と課題
Nature Reviews Rheumatology
2011年5月17日
Pediatric rheumatology Strengths and challenges of a new guide for treating JIA
近年、若年性特発性関節炎(JIA)治療が大きく進歩し、いくつかの治療薬について、適切かつ安全に使用するための根拠のある推奨事項の作成が可能になった。国際的な専門家グループによって作成されたこれらの推奨事項は、JIA患者を治療する医師にとって貴重な情報源となるであろう。
若年性特発性関節炎(JIA)の治療に関する米国リウマチ学会(ACR)の推奨事項は、小児のリウマチ性疾患に対して出された初の公式の治療推奨である。十分なエビデンスが蓄積され、JIAの薬物療法の開始と安全性モニタリングに関する推奨事項を発表できたことは、この分野の時代が到来したことを象徴している。最近発表されたJIA治療を向上させるためのquality measure(ACRやその他の組織により支持されている)と併せて、JIA管理のほぼ完全な指針が作成されたことになる。JIA治療の推奨事項とアルゴリズム はこれまでも提案されているが、2011年に発表された推奨事項の優れた点は、世界の多くのJIA専門家が作成に参加し、客観的で妥当な方法を用い、1,539件の臨床シナリオについての投票を行った点である。
コア専門家委員会(Core Expert Panel:CEP)が推奨事項を作成する準備作業、とりわけ文献のシステマティックレビューと臨床シナリオの包括的リストの作成 をするにあたって、いくつかの重要な指針が決定された。これら指針のほとんどは推奨事項に発展しているが、同時にある意味で制限してもいる。決定された重要な指針のひとつは、国際リウマチ学会(ILAR)のJIA分類法を用いるのではなく、推奨事項が定義する臨床グループを用いる、というものである。推奨事項では、次の5つの主要な治療グループが定義された:①4個以下の関節に活動性関節炎の既往、②5個以上の関節に活動性関節炎の既往、③活動性の仙腸関節炎、④活動性関節炎を伴うが活動性の全身性特徴を呈しない全身性関節炎、⑤発熱を伴うが活動性関節炎を伴わない全身性関節炎、である。この決定が行われたのには3つの大きな理由がある。第一の理由は、臨床シ ナリオの数を解析可能な数に抑えるためである。第二の理由は、十分なエビデンスがないため、乾癬性関節炎と付着部炎関連関節炎を最初の2つの臨床グループに含めて別個の推奨事項を作成しないためである。最後の理由は、症状が多様であることから、全身性JIA(sJIA)について2つの異なる臨床グループを定義する必要があったためである。CEPは、sJIAを除く大部分のJIAカテゴリーでよくみられるブドウ膜炎や、主にsJIAの合併症であるマクロファージ活性化症候群については臨床グループを定義しなかった。
作業委員会は、世界的に認められた小児リウマチ科の医師と研究者が数名、一般小児科医1名、上級開業看護師1名、およびJIA患者の親1名から構成されていたが、極めて重要な事項の決定は、各臨床シナリオにおける適切な介入について推奨事項作成のために行われた、作業委員会による投票のタイミング(2009年後半)で行われた。タイミングは完全なものではありえないが、JIAの薬物治療に関する急速な進歩とJIA治療の基本方針に重大な変化が起こっていた時期に投票が実施された。さらに、投票から推奨事項の発表まで 1年以上が経っていた。最も重要な脱落は、IL-6受容体に対する抗体であるトシリズマブである。トシリズマブは、2008年にsJIAを対象に第III相対照研究4が発表され、2011年4月にsJIAを適応とした使用がFDAによって承認された。CEPは、トシリズマブが投票の時点で日本以外で市販されていなかったことを理由に、検討の対象外とすることを決定した。同様の理由から、anakinraとは異なる作用機序をもつIL-1阻害薬であるrilonaceptとcanakinumabも対象外とされた。しかし、これらの薬剤もsJIAに効果的であることが、論文ではないが、抄録発表の形で示されている。
1990年代初めに作成されたJIA治療の基本方針7は、今回の推奨でも変わっておらず、段階的な治療の増強を行うというものである。CEPは、これまで報告された文献に基づき、疾患活動性のレベルや予後を定義した。その結果、疾患活動性が高く予後不良の患者がより速やかな治療レベルの増強や、治療レベルを飛び越て治療をすすめることが可能となった。これらの定義により、膨大な治療シナリオと詳細なアルゴリズムの作成も可能となった。しかし、軽度、中等度、重度という疾患活動性は、主として主観的指標(医師による包括評価)あるいは不正確な炎症マーカー(赤血球沈降速度やC反応性蛋白の変化しやすい値)に基づくものであった。さらに、各グループで規定された予後不良 の定義、活動性関節炎を示すX線学上の変化や、sJIAにおいて6ヵ月間のコルチコステロイド使用を要する活動性の全身性疾患などであったが、これらは疾患経過の比較的後期に認められるものであった。したがって、今後の研究と推奨事項には、疾患活動性レベルをより正確に定義すること、性能の高いバイオマーカー(おそらく遺伝子多型や遺伝子発現が含まれる)と高度の画像検査技術を用いて予後不良に関するより早期の予測因子を含めることが必要となろう。
JIAの治療方針は近い将来に変化するかもしれない。2011年に発表された論文では、anakinraをsJIAの第一選択薬とみなすべきであることが示唆されている。さらに、JIA研究であるTREAT(Trial of Early Aggressive Therapy)の結果が2011年の6月には発表される予定である。これは、早期の多関節型JIAに対する2種類の導入レジメン(メトトレキサート単剤療法とprednisone+メトトレキサート+エタネルセプト併用療法)を比較した試験である。
検討すべきもう一つの問題は、疾患の活動性が消失した後に、どの時点で治療を中止するかである。メトトレキサートの中止については大きな進歩が認められるものの、生体応答調節剤の長期使用は悪性疾患の発現と関連する可能性が報告されていることから、この薬剤の中止についても検討する必要がある。
今回の推奨事項で扱われていない、いくつかの小さな治療上の問題については、将来的に検討する必要がある。そうした問題として、葉酸とメトトレキサートの併用、コルチコステロイドの関節内注射に関する問題(用量とX線ガイダンスの使用に関して)、特定の関節に対する特別な治療法(顎関節など)、特定の腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬を選択する適応、安全性モニタリング検査(メトトレキサート投与患者の肝生検試料など)における異常所見への対処の仕方、TNF阻害薬以外の生体応答調節剤に対する安全性モニタリング、およびワクチン接種方針などがある。
大部分の小児リウマチ科医が既に実践している全般的治療原則の微調整に加えて、今回の推奨事項はJIA患者を治療する他の医師(成人患者を治療するリウマチ医や、小児リウマチ科医が十分にいない地域の一般小児科医など)にとって特に有用となろう。これらの推奨事項はまた、JIAに対する、多くの場合高額な薬剤(sJIAに対するanakinraなど政府当局によって適応が認められていない薬剤)について保険会社と国立保健機関の保険適用を獲得するための、個人や集団の権利擁護の取り組みの一助となるであろう。
著者らは「ガイドライン」ではなく「推奨」という用語を区別して用いることを強調した。これは著者らの目的が、医師による個々の決定過程あるいは医師-患者関係を支援することであって、それらに取って代わるものではないことを強調するためである。合併症(既存の肝疾患や感染症など)を有する患者の治療は、アルゴリズムで示されたものとは必然的に異なるものとなろう。推奨事項が示されなかった薬剤や併用療法の多く(著者らは「確かでない(uncertain)」という表現を使用)は、特定の病態や個々の患者に応じて適切となる可能性がある。
まとめると、この画期的な論文は、JIA治療の大きな進歩を示すものであり、患者の転帰をさらに改善する一助となることが期待される。臨床シナリオに関する投票が行われてからかなりの変化が生じているため、おそらく著者らが目標とした2012年よりも前に、これらの推奨事項は改訂・拡張されるべきである。
doi:10.1038/nrrheum.2011.67
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