Editorial

発症機序から管理方法まで

Nature Reviews Disease Primers

2015年4月23日

From mechanisms to management

「病からは解剖学と生理学と生物学の知恵が得られる。患者からは人生についての知恵が得られる。」

神経学者オリヴァー・サックス博士が、この言葉を著書The Man Who Mistook His Wife for a Hat and Other Clinical Tales(妻を帽子とまちがえた男)に記して以来30年間、医学研究は大きく進歩した。この「知恵」には解剖学、生理学および生物学以外の知恵も含まれていて、その進歩の速さに付いていくためには、最も熱心な学生であっても悪戦苦闘しなくてはならない。なぜなら、医学研究は学際的試みであり、新しい手技、結果および分析法が次々と生み出されるからである。その上、臨床医にとって、関連問題を研究する生化学者、コンピューターモデラーおよびバイオ技術者など、異なる分野の研究者が使用するその分野特有の言語と概念を読み解くことはときに困難である。

“Primerは、その分野の現状と今後の方向性を示す道標となってくれる”

Nature Reviews Disease Primers では、グローバルな視点からその疾患/障害に関する最新の理解を要約するために、基礎研究者や臨床医などのresearch trajectory(研究の軌跡)の中から選ばれた世界的に著名な第一線の専門家に執筆を依頼している。どのPrimerも同じように、疫学、発症機序、病態生理、診断、スクリーニング、予防、管理および患者のQOL(生活の質)の主要セクションから構成されている。実際、全てのPrimerには共通のゴールがある。それは、各疾患/障害に関する現状の解説に止まらず、将来的な課題にまで言及することである。最終セクションに設けられた「Outlook」には、その研究分野での主な取り組むべき未解決問題や次の10年間に待ち構えている主要な課題について、著者らの先見が披露されている。Primerは、新規参入する研究者にとっては、対象となる疾患/障害の全体像を描出し、関連するあらゆる主要コンセプトを網羅した理論的解説書となり、また、経験を積んだ研究者にとっては、その分野の現状と今後の方向性を示す道標となってくれる。

各Primerには、内容をイラストにまとめたPrimeViewというポスターが付属している。PrimerとPrimeViewの両方が、あらゆる分野の読者にとって、容易にアクセスできる各トピックスの入門書になることを期待している。

オックスフォード英語辞典(Oxford English Dictionary)によると、疾患(disease)は「身体、または身体の一部または臓器の機能が障害または破綻した状態」と定義されている。創刊号の内容からも明らかな通り、Nature Reviews Disease Primers で取り上げるテーマは、悪性黒色腫全身性強皮症、およびハンチントン病のような「よく知られた疾患」である。さらに、心血管疾患や骨粗鬆症のリスクが増加する閉経のような加齢現象など、他の重要な健康関連トピックスについても取り組んでいく。また、希少疾患、感染性疾患、および非感染性疾患をはじめ行動症状、発達障害および栄養欠乏(いずれもヒトの健康に深刻な影響をもたらす)も本誌の責任範囲である。

サックス博士は、解剖学、生理学および生物学の知恵と、その誠実な人柄を通して、自身の人生と経験についての知恵を研究の中で迷いなく示し、患者を中心とした医学研究の必要性を常々訴えてきた。博士は今年の早い時期に、予後不良の転移性ぶどう膜悪性黒色腫に罹っていることをThe New York Times 誌上で告白した。現在の医学研究が博士の病に打ち勝つことはできないが、次の世代では、悪性黒色腫を含む数多くの疾患から得られた科学的発見により、毎日のように恩恵を受けているかもしれない。Nature Reviews Disease Primers に集約されているのは疾患から得た科学の知恵である。急成長しているこれらの知恵は、やがて患者の人生が上向いていくことに役立てられるだろう。

doi:10.1038/nrdp.2015.1

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