生化学:原繊維のもつれを少しずつほどく
Nature 587, 7834
アミロイド原繊維は、細胞内のタンパク質品質管理装置にとって難易度の高い基質である。しかし、シャペロンHSP70はコシャペロン(補助因子)であるDNAJB1、HSP110と協力して働いて、すでに形成された原繊維を解くことができる。今回、2つの論文によって、この独特な活性の作用機構について、新たな手掛かりがもたらされた。A Wentinkたちは、αシヌクレイン原繊維の離散に至る各段階を分子レベルで分析している。DNAJB1は、オリゴマーを形成したαシヌクレインを多価相互作用を介して特異的に認識し、HSP70を原繊維へと選択的に誘導することが分かった。DNAJB1とHSP70は、アミロイドコア自体ではなく、αシヌクレインの両末端、すなわち可動性のあるC末端尾部とN末端尾部を介して原繊維と相互作用する。DNAJB1とHSP110の相乗作用によって、原繊維表面に多数のHSP70分子が集められ、密に並んで配置されるようになる。この密な配置は「エントロピーによる引っ張り力」の発生に理想的であり、アミロイド原繊維の離散が強く加速される。一方、O FaustたちはJドメインタンパク質(JDP;別名HSP40S)の役割に注目し、DNAJB1のようなクラスBのJDPが、既知の他のJDPとは違って、2つの段階を経てHSP70と結合・活性化することを明らかにしている。HSP70は通常、Jドメインと結合するだけで簡単に活性化されるが、DNAJB1のJドメインは接近できなくなっている。HSP70のC末端尾部がDNAJB1上の第2の結合部位に結合するとJドメインは初めて解放され、HSP70に結合して活性化できるようになる。HSP70を効率よくアミロイド原繊維へと運んで集合させるのにはこの調節方式が不可欠であり、このことは、クラスBのJDPが原繊維の離散に果たす役割は、他のどんなJDPを持ってきても代用できない理由を説明できるかもしれない。