Nature ハイライト

物理:いかにして「猫」をコヒーレントに保つか

Nature 438, 7068

物理学者たちが、いわゆるシュレーディンガーの猫の超小型版を作った。シュレーディンガーの猫とは、量子力学の逆説的な法則によって、同時に生きているとも死んでいるとも見なせる有名な猫だ。今回のポイントは、「猫」がたった6個の原子でできている点である。  量子系は一度に2つ以上の状態として、より正確に言えば状態のいわば「重ね合わせ」として存在できる。量子物理学の父の1人であるオーストリア人の物理学者、E・シュレーディンガーは、ある量子系が特定の1つの状態をとった場合にこの猫が銃で撃たれるという状況を作り上げ、この考えのむずかしさを説明した。しかし量子力学で考えるようにこの系がいくつかの状態の重ね合わせであれば、銃の引き金は引かれたかもしれないし、引かれなかったかもしれない。つまり、この猫は生きているとも死んでいるとも言える。  現在、こういう状況を作り出すのは事実上不可能と考えられている。それは、自らの運命を量子現象にゆだねる猫のような多数の粒子からできた物体は、その周りの環境と相互作用するので、重ね合わせを混ぜこぜにする、言い換えれば「崩壊させて」しまい、その結果明確な巨視的な結果が生まれるからである。これがデコヒーレンスと呼ばれるものである。  デコヒーレンスは、わずか一握りの粒子の重ね合わせの場合ですら避けるのは非常にむずかしい。そして、シュレーディンガーの「猫状態」を生じるように系を制御するのは特にむずかしい。それは、こうした状況が猫の「生きている」状態と「死んだ」状態を反映している、つまり2つの最大限に異なる量子状態の重ね合わせだからである。しかし、今週号でD Leibfriedたちは、電磁場中にトラップした最大6個の金属ベリリウム原子の「猫状態」を生成したと報告している。  またH Häffnerたちも今週号に、最大8個のトラップされたイオンからなる上記と近い状態(いわゆる、「W」状態)を形成して、似たような量子「均衡作用」を実現したと報告している。これらの状態は特に安定で、いくつか粒子を取り除いても崩壊しない。こうした状態は「オンデマンド」で生成され、より多数の粒子でも実現可能と思われることから、この技術によって大規模な量子コンピューターを構築する道が開かれるかもしれない。

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