Nature ハイライト

遺伝:菌類トリオのゲノム解読

Nature 438, 7071

3種類の菌類のほぼ完全なゲノム塩基配列が発表された。ゲノムが解読されたのは、食品の生産に使われるコウジカビ(Aspergillus oryzae)、広く見られる病原菌であるAspergillus fumigatus、菌類の遺伝学研究によく利用されるモデル生物のAspergillus nidulansの3つである。  町田雅之たちは、日本で酒や醤油といった伝統的な発酵食品の醸造に使われるコウジカビ(A. oryzae)のゲノム塩基配列を解読した。この菌のゲノムはA. fumigatusA. nidulansに比べておよそ3割増しの大きさであり、この余分な遺伝子の多くが、この菌特有の性質をもたらしている。例えばこの菌には、食品を発酵させる酵素が含まれている。またこの塩基配列から、この菌が有毒なアフラトキシンを生産しない理由も明らかになった。町田たちは、アフラトキシンの遺伝子が近縁のA. flavusから伝わった後で不活性化されたのだろうと考えている。  W Niermanたちは、病原体であり、また重い喘息を引き起こしかねない重要なアレルゲンでもあるA. fumigatusの塩基配列を解読した。感染を防ぐための薬剤の標的となる可能性がある遺伝子や、この菌が生産するこれまで知られていなかったアレルゲン9種類の遺伝子が同定された。  J GalaganたちはA. nidulansの塩基配列を解読し、他の2つの菌のゲノムと比較している。これら3つのゲノムは互いに大きく異なっていて、近縁の遺伝子どうしでも哺乳類と魚類の遺伝子の場合と同じくらい異なっている。そのうえ、DNAの大規模な再編成についても、3つのゲノムの進化速度は異なっている。比較によって、A. fumigatusA. oryzaeが有性生殖することも明らかになった。これまでこれらは細胞分裂によって無性的に増殖すると考えられていたのだが、この発見によって工業生産に適した菌株の開発や感染のさらなる解明への道が開けるだろう。

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