筋ジストロフィーについての新たな考察が、実験に使用される線虫Caenorhabditis elegansという意外なところから得られた。筋ジストロフィーは進行性の筋変性が特徴で、ヒトの遺伝病の中でも最も多くみられる病気のひとつである。筋ジストロフィーはジストロフィン−糖タンパク質複合体(DGC)の遺伝的欠陥によって生じる。DGCはタンパク質が集まったもので、筋細胞内の細胞骨格と細胞外マトリックスを物理的に結びつける。また、筋細胞の収縮を制御するシグナル伝達にもかかわっている。しかしDGCについてはまだ解明すべき点が多い。今回、線虫に特殊な運動異常を引き起こす変異から手がかりが得られた。S L McIntireたちの報告によれば、snf-6という遺伝子の変異によって、線虫にはDGCの変異で見られるのと同様な症状が現れたという。たとえば、めったにしない前進運動を無理にさせると、線虫の先端の過剰な横向き運動がみられる。snf-6がコードするのは、神経伝達物質アセチルコリンの新しい輸送体であることがわかった。すなわちSNF-6は、シナプス活性が高まったときに、神経筋接合部でのアセチルコリン取り込みを仲介する。さらにMcIntireたちは、SNF-6がDGCと結合することやDGC遺伝子の変異により神経筋接合部のSNF-6が消失することも明らかにした。アセチルコリンの除去能力が損なわれ、筋肉の興奮が長期化することが、筋ジストロフィーの発症に結びついている可能性がある。