Nature ハイライト

進化:声でもわかるコウモリの種

Nature 429, 6992

コウモリ同士の反響定位能力がわずかに違うだけで、獲物や他のコウモリ、さらには周囲の世界の見え方も少しずつ違ってくるらしい。そして、こんな違いが進化の過程で種が分岐するのに重要な推進力となった可能性があることが2つの報告で示されている。 まず1つ目のT KingstonとS J Rossiterの研究報告によると、東南アジアの希少種であるキクガシラコウモリの仲間Rhinolophus philippinensisは、同じ場所に暮らすが3通りの大きさのものがいて、それぞれが同じ基本周波数の違う倍音で反響定位を行っているという。遺伝的に解析してみると、これらの3つの型は最近分岐しており、この分岐はどうやら複数回起こったらしい。Kingstonたちによれば、倍音の切り換えが「入手できる獲物に対するコウモリの知覚に不連続性を生じさせ、これが分断性選択(2つ以上の最適値があるときにかかる選択)を開始させうる」のだという。キクガシラコウモリの発声の周波数は餌の捕獲だけでなく仲間同士のコミュニケーションにも役立っているため、たとえすべてのコウモリが地理的に同じ場所に暮らし獲物を捕まえるとしても、その中で周波数に違いが生じると周波数によって配偶相手を選択することになる可能性があり、最終的には種分化に至るかもしれない。 これは進化論研究にとって重大な発見といえる。少なくとも同所的種分化の可能性、つまり地理的もしくは生態的にはっきりとした障壁がない場所でも種が分かれる可能性があることを示す一例となるからだ。 2つ目の報告ではB M SiemersとH-U Schnitzlerが、ヨーロッパ産ホオヒゲコウモリ属(Myotis)のよく似た5種について、反響定位の超音波を「散乱」させる背景にどのくらいまで近づいて餌を捕らえられるかを調べ、5種の反響定位能力に、その距離に相関する大きな違いがあることを示している。得られた結果から、反響定位信号の違い以外は似通っている近縁なコウモリ種同士について、これがニッチの違いの一因となっていることがわかる。 感覚能力と採餌能力を関連づけたこれらの研究成果は、動物群集の構造化に感覚が果たす役割を知るうえで重要な糸口となるものだ。

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