種分化は現在の進化生物学が抱える最重要課題だといって間違いないだろう。地球上には膨大な数の生物種が存在し、そのそれぞれが環境に対して驚くべき適応を見せている。では、新しい種はいったいどうやって生まれてくるのだろうか。共通の祖先からどのようにして2つの新種が分かれてくるのだろうか。その鍵を握るのが生殖的隔離である。つまり、新しい種の個体は、別の種ではなく、自分と同じ新しい種から配偶相手を選ぶことで、遺伝的多様性を強化しているのである。この場合に肝心なのは、個体が2種間の違いをはっきりと認識できねばならない点だ。しかし、種がまだ形成途中のときは種間の違いはなかなか認識できないはずで、そのため、あたかも種が自力で分化してしまうかのようにみえるジレンマに陥ってしまいかねない。この難問に今回、J S McKinnonたちが風穴を開けた。彼らは、河川に隔離された陸封型のイトヨ(トゲウオ科の魚類)個体群では、雌が雄の体サイズをもとに配偶相手を選んでいることを示している。雌のイトヨが体サイズをもとに配偶相手を選ぶことはすでに実証されているが、今回の研究が画期的なのは、互いに独立して血縁関係のない多数の個体群についてデータを集めた点にある。そして、これらのデータすべてが、雌が体サイズをもとに配偶相手を選ぶ傾向があることを示していたのだ。そこで、少なくともイトヨでは明らかに、体サイズの多様性が新種誕生に進むきっかけになっているとみていいだろう。