自然選択は最も適応したものだけが生き残るように働くはずだが、では身体能力の個体差が動物にも人間にも残ることはなぜなのだろうか。トカゲ類の走る能力を解析した今週号の報告によると、本来走る能力に優れた者は、食物が不足した条件下でのみ有利であり、食物が十分にある場合にはその優位性が失われてしまうのだという。J-F Le Galliardたちによると、コモチカナヘビ(Lacerta vivipara)では生まれたての子どもの持久力にかなりの個体差がある。ところが餌を十分に与えれば、持久力のないカナヘビも1か月後には追いつく。それに対して、餌が足りない場合は持久力のあるカナヘビが優位性を保ち続ける。この結果からみると持久力にかかる選択は単純なものではないと、著者たちは述べている。新しい捕食者がやってきたために起こる行動変化による影響についても同じことがいえそうだ。別の報告でJ B Lososたちは、捕食者にあたるゼンマイトカゲの一種Leiocephalus carinatusをバハマ諸島の6つの島に移入し、すでに住み着いていて被食者にあたる小型のアノールトカゲAnolis sagreiが、身を隠すために低木に上る傾向の変化を調べた。こうした行動変化によっていかなる自然選択も妨げられると考えたいところだが、実際はそれでもまだ、体が大きくて攻撃を受けにくいA. sagreiのほうが有利だった。ただし、すばやい木登りが徐々に重要になっていけば、今後このパターンが逆転するかもしれない。