Nature News

地震の脅威が原子炉を襲う

原文:Nature 494, 14-15 (号)|doi:10.1038/494014a|Quake fears rise at Japan’s reactors

David Cyranoski

断層のため原子炉を再稼動するには危険性が高すぎると原子力規制委員会委員が報告する。

島崎邦彦率いるチームは、日本の原子炉を脅かす地震の脅威に関する大きな懸念を表している。

Credit: THE ASAHI SHIMBUN/GETTY IMAGES

2011年3月の福島原子力発電所における事故発生以来、日本の原子炉50機は停止したままだが、再稼動を計画する原発支持派は手ごわい相手に苦戦している。その相手とは、島﨑邦彦だ。原子力発電に力を入れた自民党新政権に支えられ、原子力業界は国内のエネルギーの需要を満たすため発電所の再稼動を希望している。しかしその前に、発電所が地震の脅威に直面していないという業界の主張の正当性を確かめる必要がある。原子力規制委員会からその任務を与えられたのは、島崎と16人の地球物理学者たちだ。

オンライン特集:東日本大震災
オンライン特集

最初の報告書でも明らかなように、島崎率いるグループは産業の主張を簡単には受け入れない。原子力規制委員会委員長代理の島崎は、2004年に福島県沿岸が津波による被害を最も受けやすい場所であると主張していた。2013年1月28日、島崎らのグループは、運転再開を予定していた敦賀原子力発電所の下を活断層が走っている可能性があるという報告書を提出し、原子力発電の支持者たちの怒りを買った。規制委員会が島崎らの研究結果を支持した場合、発電所の運営は無論許可されない。

一方で、島崎らのチームの評価に疑問が投げかけられている。疑問の声は原子力産業以外からも上がっている。地震学者たちは、島崎らのグループによる発見が、規制委員会が定義する「活性」断層に当たるものなのかどうかを議論している。つまり、この断層が過去12万年以内に地震を引き起こしたか否かだ。批評家たちは、一部のケースでは割れ目に危険性が無く断層ですらない可能性があると述べている。

「批判を免れるために過度に慎重になっている」と指摘するのは、広島大学の古地震学者である奥村晃史だ。奥村は、2012年9月まで原子力規制委員会の前身である原子力安全委員会の専門員を務めていた。「まるで自分たちを悪者から人々を守るスーパーマンのように考えているのです。」

島崎らのチームは5つの原子力発電所を評価しており、これには合計12期の原子炉に加え実験用の高速増殖炉で運転停止中のもんじゅが含まれる。5つの発電所のうち2箇所での再稼動が予定されており、4機の原子炉のうち2機は既に運転中だ。チームによる報告の多くは、業界による調査結果と食い違っている。

たとえば、敦賀発電所の原子炉から250メートル離れた場所に断層があることが分かっている。発電所を保有する日本原子力発電株式会社が行なった発掘調査で地下の断層全体にずれが発見され、活断層であった可能性があった。しかし同社の専門家たちは、このずれは12万年以上前に起こったものであるという結論に至った。

断層調査 | 拡大する

島崎の率いるチームが同発電所の堀を調査した結果、過去12万年以内にずれが発生したかもしれない証拠を発見した。そして原子炉1機は、その断層の延長線直下に建設されている。「ずれや傾きを見てみると、ずれが原子炉の下を走っているように見えます」と、島崎は述べている。

さらに、関西電力(KEPCO)が保有する大飯発電所でも、調査中に問題が発見された。大飯発電所内には、現在日本で運転中の原子炉2機のうちの1機がある。発電所の下を分断するように走る断層は活断層ではないと、関西電力は述べている。しかし、もともと関西電力の研究者が溝を掘った際の重要なデータが欠けていると、溝島崎氏は指摘する。さらに2012年12月、島崎率いるチームが東通発電所近郊に活断層を発見したと発表した。同発電所には、停止中の原子炉が1機、計画中の原子炉が2機ある。詳細な報告書がもうすぐ提出される予定だが、発電所を保有する東北電力は断層が不活性であるというデータを提供する予定だとしている。また島崎のチームは、他の原子炉2機ともんじゅの調査を今年度中に行なう予定である。しかし、批評家たちは島崎たちの調査方法を疑問視している。

奥村は、島崎らが活性と判断した断層の中に地滑りの結果であるものも含まれている可能性があると述べている。島崎のチームは堆積物と岩石の専門家に欠けており、限界がある。原子力規制委員会は、同分野の専門家に意見を求めているとのことだ。

その他にも、発見されたずれが危険であると急いで結論付けていると懸念する声もある。「どこをみても、ずれはあるものです」と、東京首都大学の地震地質学者である山崎晴雄は述べる。山崎によれば、もし断層にずれが生じた場合に原子炉がどのような被害をうけるのかという点に議論の焦点を当てるべきである。

原子力規制委員会は地震の報告書を評価しており、発電所の耐震性に重点を置いていると、島崎は述べる。もし検討中の規制が変更されずにそのまま策定された場合、原子力発電所はさらに問題に直面することになるだろう。現状今日では7月に規制が策定される予定だが、排出口や放射能フィルターの新しい要件により、大飯原子力発電所の原子炉はすぐに閉鎖されることになり、他の発電所も再稼動には改良点が必要となるだろう。

(翻訳:野沢里菜)

「オンライン特集:東日本大震災」記事一覧へ戻る

オンライン特集:東日本大震災

COVID-19特別翻訳記事

ネイチャーの人気コンテンツ

  1. 最初の10億年に超大質量銀河が活発に形成された
  2. 低質量X線連星はくちょう座V404星は三重星である
  3. 太陽系の年代測定法を研ぎ澄ます
  4. 超固体相に見つかった量子渦
  5. フロー電池向けイオン伝導膜としての微細孔性高分子
  6. フッ化水素を発生させずに蛍石からフッ素化学品を合成
  7. スマートフォンによる電離圏マッピング
  8. CO2とNが草原の生物多様性に及ぼす複雑な影響
  9. 細胞生物の多細胞的な発生プログラム
  10. 受容体のタイプがニューロンの特徴選択性を決める
advertisement
プライバシーマーク制度