幹細胞作製法に新たな疑問
原文:Nature 507, 283(号)|doi:10.1038/507283aStem-cell method faces fresh questions
酸性溶液に浸けることで、幹細胞を作製できることを報告した論文に関する調査で、その作製方法に複数の誤りが見つかったため、理研はさらに厳密な調査を続ける意向だ。
NPGよりお知らせ
Nature 2014年1月30日号641〜647ページ、および676〜680ページに掲載された小保方晴子氏ら(理化学研究所ほか)による論文2報について、論文中にいくつかの致命的な誤りがあることを理由に論文撤回の要請があり、弊社はそれを受理いたしました。
撤回理由は、Nature 2014年7月3日号112ページ、および下記URLをご覧ください(ウェブページが最新情報になります)。Natureダイジェスト 2014年3月号2〜3ページでも、これらの論文に基づいた記事を掲載しておりました。
STAP関連論文、撤回理由書
成熟した細胞をストレスにさらすことによって胚のような状態に再プログラム化する方法について詳述した2編の論文の真実性を問う圧力がますます強まっている。筆頭著者である小保方晴子(おぼかた・はるこ)が所属する理化学研究所(理研)が、調査の中間報告において、論文中に複数の「重大な誤り」があることを報告してから数日、小保方の博士論文、そしてSTAP論文で使用された細胞に対しても、さらなる疑問が浮上した。
理研は日本で最大の研究組織であり、STAP論文の筆頭著者である小保方をはじめ、複数の共著者が所属する発生・再生科学総合研究センター(CDB;神戸)を運営する。理研は3月14日、STAP細胞の作成方法に対する疑惑に関する調査の中間結果を発表した。中間報告において、調査委員の1人は、著者らに対して論文の撤回を勧告した。
事態はその後さらに進展し、小保方の博士論文の信頼性にも疑問が投げかけられた。小保方に博士号を授与した早稲田大学(東京)は、博士論文についてすでに調査を開始している。また、論文の共著者の1人は、STAP細胞の再プログラム化に関して、実験で作成された細胞の一部を独立に検証できる機関に送るつもりだと述べている。
STAP細胞の2編の論文(H. Obokata et al. Nature 505, 641-647 and 676-680; 2014)がNature 1月30日号に掲載されたとき、世界中のメディアが大々的に取り上げた。研究チームが「刺激惹起型の多能性獲得(STAP;stimulus-triggered acquisition of pluripotency)」と名付けた手法が重要視されるのは、胚のような状態に再プログラム化された細胞は、疾患の発生や薬剤の有効性を研究するのに理想的だからだ。
しかし、論文の発表後数週間も経たないうちに、論文中で複数の画像が使い回しされているという指摘や、論文の結果を再現できないといった科学者たちの主張が出てきた。これらを受けて、理研は調査に乗り出したのである。
中間報告では、ノーベル賞受賞者で、理研の理事長を務める野依良治(のより・りょうじ)を含む5人の調査委員会のメンバーが、6つの問題点を挙げた。調査委員会は、そのうち2つを故意ではない誤りと説明した。残りの4つは、レーンが後から付け加えられたように見える電気泳動ゲルの画像や、方法のセクションの一部に盗用と思われる箇所があることなどである。これらはより重大な問題と考えられるため、調査委員会はさらに調査を続けると発表した。調査委員会は、STAP現象の真偽性に関しては明言を避けているものの、「理研に所属する共著者の丹羽仁史(にわ・ひとし)が、STAP論文に記載されている方法の再現を試みている」と述べた上で、改竄(かいざん)などの不正行為の証拠は見られなかったと付け加えた。
私が胚盤胞に注入したものは何だったのでしょうか?
また、中間報告の中で、調査委員会のメンバーであり、CDBのセンター長を務める竹市雅俊(たけいち・まさとし)は、理研に所属する小保方、丹羽、笹井芳樹(ささい・よしき)の3名の共著者が、彼の要求に応じて論文の撤回に同意していると述べた。しかし、中間報告時に配布されたこの3人による日本語の声明には、「論文撤回に関しては考慮中であり、所外の共著者らと連絡をとってその可能性について話し合っている」と書かれていた。
なお、2編の論文のうちの1編(H.Obokata et al. Nature, 505、641-647;2014)の連絡先著者であるハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)の Charles Vacanti は、データが不正確であるという確固たる証拠がないかぎり、論文を撤回する意向は全くないという態度を表明している。
さらなる混乱を招いたのは、2011年の早稲田大学の小保方の博士論文の最初の20ページが、米国立衛生研究所(NIH)のウェブサイトの「幹細胞の入門書」とほぼ同一であることが明らかになったことだ。また、博士論文の結果として用いられていた画像の1枚は引用の記載なしに商業用ウェブサイトから転載されたものだった。さらに、その博士論文を承認した学位論文審査委員会のメンバーの1人として論文にも名前の記載があるVacantiは、Nature のニュースチームの取材に対し、「私のところに彼女の学位論文は送られてきていませんし、それを読むように頼まれたこともありません」と話した。
先週、小保方は、博士論文を撤回したいという手紙を、早稲田大学のある教授(名前は明らかにされていない)に宛てて書いたという。しかし、小保方はまだ、正式には撤回を申請してはいない。
STAPに関する論争を解決したいという願いから、論文で発表された細胞の正体を突き止める調査が始まっている。2編目の論文(H.Obokata et al. Nature 505、676-680; 2014)の著者である山梨大学の若山照彦(わかやま・てるひこ)は、STAP論文の中で、小保方の作成したSTAP幹細胞をマウスの胚に注入して、その多分化能性を評価する実験を行った。この実験において、STAP幹細胞が注入されたマウスの体内で異なった細胞種に分化したことによって、その細胞が発生能力を獲得したこと、すなわちSTAP現象が立証されたのである。若山は現在、小保方が作成して彼に渡した細胞を独立した研究機関に送って、それらが本当にSTAP細胞であるかどうかを遺伝学的に分析してもらっている。「私が胚盤胞に注入したものは何だったのでしょうか?」と若山は問う。「それは私が何よりも知りたいことです」彼はその答えが数カ月ほどで得られることを望んでいる。
(翻訳:古川奈々子)