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第13回「理系」で広がるキャリアパス
- 輝く理系女性たち レポート

日時:2013年8月19日(月)
会場:埼玉県立浦和第一女子高等学校
共催:埼玉県立浦和第一女子高等学校

2013年8月19日。夏休みの女子高を舞台に、科学の世界で活躍する4人の女性をパネリストに迎えて、Nature Café が開かれた。興味や好奇心を大切に、情熱をもって仕事に取り組んできた4氏のメッセージは、高校生にどう届いただろうか。

当日の様子
当日の様子
当日の様子
当日の様子

照りつける日差しも眩しい夏休み中の高校に、パネリストたちがやってきた。科学の世界で活躍する4人の女性。第一線で活躍する彼女たちは、さまざまなバックグランドを持つ。何がきっかけで現在のキャリアに至ったのか、どうしてそんなに仕事を楽しめるのか。高校生たちと熱心に語り合った。

今回の Nature Café は、埼玉県立浦和第一女子高等学校、通称「浦和一女」で開催された。高校で開催される初めての Nature Café だ。浦和一女は、創立114年の伝統校で、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定校として今年で通算10年目。SSHは、先進的な理数教育を行う高等学校の活動を、文科省が支援する事業。SSH活動の一環として開かれた今回の Nature Café には、浦和一女から約100名の生徒が、同じくSSH指定校の埼玉県立熊谷女子高等学校から10名の生徒が参加した。

さまざまな道がある

当日の様子

「こんなにおもしろいものはない」と、研究の楽しさを表現するのは、京都大学大学院理学研究科生物科学専攻教授の高橋淑子氏。動物の体が1個の卵からどのように作られていくかを探る発生生物学という学問に携わる。高校の生物の授業が好きで、大学で生物を学び、大学院で発生生物学に出会った。その後フランスおよび米国での研究員を経て、現在に至る。

脳の研究をしている山田真希子氏は、放射線医学総合研究所の研究員だ。大学までは理系であったが、もともと興味のあった哲学への関心が捨てきれず、哲学へ転向。その後、大学院では精神医学領域の神経心理学に進み、現在は脳科学(認知神経科学)の研究者として人の心の仕組みを探っている。新たな発見や知識にわくわくしている日々だという。

横山広美氏は、東京大学理学系研究科の准教授。科学コミュニケーションを研究する。広報室副室長を兼務し、東大の研究情報を外部へ発信もしている。科学のおもしろさを文章で人々に伝える仕事をしたいと思っていたが、そのためには最先端の研究現場を体験すべきと考えて、大学で物理を学び、高エネルギー研究所で大学院生として研究生活も経験している。

Rachel Pei Chin Won氏も、科学を伝える仕事だが、横山氏とは違う職種だ。Nature Photonics の編集長として、光学分野の研究動向を取材し、掲載論文を選んだり、記事を書いたりしている。物理学や数学が得意で、大学と大学院修士課程で機械工学を専攻し、博士課程では光学を研究した。研究者から編集者に転身したが、最先端の研究に立ち会える今の仕事が楽しいという。

好きなことを見つける

今回の Nature Café では、まず全体会でパネリストが語り、その後に、パネリストが分かれて、それぞれ高校生たちとの意見交換となった。4氏いずれからも伝わってくるのは、科学に携わる仕事にはさまざまなものがあり、そのキャリアパスも多様だということだ。そして、高橋氏が言うように、どの道を選ぶかは、自分自身に委ねられている。Won氏も、女性だからとひるむことはない。努力を惜しまなかった人のところにチャンスはやってくる、と強調する。

今は目の前のことを一所懸命にやり、自分が好きなこと、続けていきたいことを見つける努力をすべきだと異口同音に語る4氏。高校生たちも「他人との比較でなく、自分のやりたいことを自分で考えたい」「研究者への道を歩む意欲が湧いてきた」「科学の分野で活躍する女性はかっこいい」と、真剣なまなざしで答えていた。

高橋淑子氏に聞く

京都大学大学院 理学研究科生物科学専攻 教授

Q:進路に悩んでいます。どのように決めたらいいですか。

A:まず、決めるのは自分だ、ということを忘れないでください。人から言われて決めると、つらいことがあったときに乗り越えられない。自分で物事を決められる人を、私は「自由人」と呼んでいます。自分で決めて、自分の足で歩く。誰かのせいにしない。それが基本。私が大学生だった20年前、女性が科学者になるのは社会的に決して簡単ではなかった。でもこれからは違う。自由人として羽ばたいてください。

Q:研究者とはどんな職業ですか。

A:理学部での研究は、「真理の追究」です。そのために必死で努力するのが研究者という職業。何かを明らかにできたときの喜びは、例えようもありません。夢を追い求める、刺激的な人生なのです。

Q:では、研究で大変なことは。

A:いっぱいあります。実験は時間が掛かるものですし、論文を仕上げてそれを発表するのも大変です。でも、好きだから、やる。英語はぜひ習得すること。いろいろな人と交流ができて、研究者の人生が100倍豊かになりますよ。

高橋淑子氏

山田真希子氏に聞く

放射線医学総合研究所 研究員

Q:どうして理系も文系も大事なのですか。

A:脳と心の関係を研究するためには、理系と文系両方の知識が必要です。基本的には、理数に基づく科学的方法で、さまざまな証明を行いますので、理数能力は必須です。しかし、重要なことは何を証明するかであり、この分野では「こころの現象」です。そのためには、哲学や心理学などで議論されている「こころの現象」を知る必要があるのです。

Q:具体的には、どのようなことを調べていますか。

A:私は、人間の社会性や自己意識、また、妄想などの精神症状に興味を持っています。脳研究では、何かをしているときに、脳のどの部位が活性化し、どんな物質が働いているかを、脳を撮像して調べ、それにより心と脳の関係を理解し、精神疾患の原因をも知ることができます。例えば、道徳観や正義といった哲学上の難問を脳科学的に明らかにしようと、裁判員が被告人の罪を判断するときの心の働きを研究しました。

Q:研究者になるために、どんな勉強をしたらいいでしょうか。

A:高校時代は数学など理系科目の基礎学力と英語力を十分につけてください。また夢中になれるもの、例えば芸術、旅行、運動などにより、創造力や探求心を養いましょう。

山田真希子氏

横山広美氏に聞く

東京大学理学系研究科 准教授

Q:科学コミュニケーションの仕事につくには、どんな勉強をしたらいいですか。

A:社会や政治なども関わる学際的分野ですが、最初から分野をまたいでと思うと、力を削がれてしまいがちです。まず、専門分野を何か1つ修めることが重要です。

Q:好きな科目と得意な科目、どちらを選ぶべきですか。

A:両方を大切に。高校時代に好きなことは、将来もきっと好きですから、好きな科目を諦めないで。私の場合は、「これが好き」と言い続けていたら、その言葉を覚えていてくれた先生が、関連した仕事を紹介してくれました。

Q:そもそも自分が何をしたいのか、よく分かりません。

A:本屋さんに行くことをお勧めします。大きな本屋さんの店内を歩き回り、気になる本が並んでいる棚があったら、その本棚の分野があなたの好きなことですよ。

横山広美氏

Rachel Pei Chin Won氏に聞く

Nature Photonics 編集長

Q:英会話はいつ学びましたか。

A:マレーシアの高校は英語の授業が週3時間程度でしたので、留学後に、実地で鍛えました。発音の訛(なま)りが気になって苦手意識があったのですが、初めての国際学会で、どの国の人にもそれぞれの訛りがあるのに気がつき、それからは自信が持てるようになりました。

Q:どのような高校時代を過ごされましたか。

A:行動的で、コンピュータ、バスケットボールなど、一時期は9つのクラブの部長をしていました。学生記者として記事を書くことが楽しくて、進路は科学かジャーナリズムか迷いましたね。

Q:イギリスの大学への留学は、どのように実現させたのですか。

A:自分と同程度の学力の男子学生の留学で競争心が芽生えたことがきっかけです。あちこちの大学の教授にメールを送り、半年くらい掛かりましたが、奨学金付きで私を受け入れてくれる研究室を見つけました。博士号取得後は、キャリアの選択肢も大きく広がりました。

チャンスは、ただ待っていてもやって来ない。準備した人のところに来る、というのが実感です。だから、そのための努力が大切だと思っています。

Rachel Pei Chin Won氏

文:藤川良子(サイエンスライター)。

第13回 Nature Café レポート PDFダウンロード

このレポートは、Nature ダイジェスト 2013年11月号に掲載されています。


パネリスト

高橋 淑子

京都大学大学院理学研究科生物科学専攻・教授

横山 広美

東京大学理学系研究科 科学コミュニケーション・科学技術政策
准教授、広報室副室長

山田 真希子

独立行政法人放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター
分子神経イメージング研究プログラム サブリーダー
独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業さきがけ
「脳情報の解読と制御」 研究員

Rachel Pei Chin Won

Nature Photonics 編集長

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