Event Reports

第14回 光がもたらす未来の技術
- 光技術はどのように社会に貢献できるのか? レポート

日時:2014年3月14日(金)
会場:グランフロント大阪 ナレッジキャピタル7階 ナレッジサロン
共催:英国総領事館、一般社団法人ナレッジキャピタル
協力:沖縄科学技術大学院大学

今、我々にとって最も身近なものである「光」に世界の注目が集まっている。今回、英国から量子光学専門のジェレミー・オブライアン教授(ブリストル大学、量子フォトニクスセンター所長)とトーマス・クラウス教授(ヨーク大学)、そして沖縄科学技術大学院大学からケシャブ・ダニ准教授をパネリストに迎え、光テクノロジーの未来像について語っていただいた。

当日の様子
ジェレミー・オブライアン
ジェレミー・オブライアン

14回目を迎えたNature Caféは、昨年開業した大阪・梅田の複合施設「グランフロント大阪」で開催された。日本と英国間の国際協力を推進し、科学の発展とイノベーションの創出を積極的に後押しする英国総領事館の協力のもと、「グランフロント大阪」中心部「ナレッジキャピタル」の中でも一際存在感を放つ「知」の交流サロン「ナレッジサロン」に国内外から70名が集まった。

来年2015年は、「光と光技術の国際年」であり、今、「光」に大きな注目が集まっている。今回、光研究の第一人者たちが、光テクノロジーのさまざまな応用例について、その未来像を語ってくれた。

光量子コンピューターの小型化を目指し、集積素子開発に取り組んでいるオブライアン教授は、近未来の遠隔医療が量子情報通信を駆使したものになる可能性があると話す。個人の健康状態の変化は、量子力学を採用した携帯電話で検出、医師は量子コンピューターで診断、そして薬の処方は量子シミュレーターで行われる。個人データは、量子暗号通信技術により、厳密かつ安全に管理できるという。実際、量子技術に着目している多くの企業や研究機関が、ブリストル大学と共同開発を行っており、関心の高さがうかがえる。オブライアン教授は、「量子コンピューターは、技術的にはすでに応用化が可能な段階にあり、この技術の応用が発展するかは、今後のこの技術への投資にかかっています」と付け加えた。

トーマス・クラウス
トーマス・クラウス

フォトニクス結晶の研究を専門とするクラウス教授は、生活に身近なヘルスケアと太陽電池を例に、フォトニクス技術の応用を紹介した。ブレス・アナライザーは吸収分光学の手法を使っており、今ではアルコールだけでなく、がんや糖尿病も検出・測定できるようになっている。また、液体分析にはラマン分光法が用いられており、ウイスキーや尿、血液などの成分検査ができるという。さらに、光学と遺伝学を融合させた光遺伝学の手法を用いると、脳機能をバイオセンサーで制御できるというのだ。ただし、クラウス教授によると、この技術はアルツハイマー病の治療に役立つ可能性があるものの、実用化にはまだ時間がかかると補足した。

また、彼は、太陽電池の課題であるエネルギー変換効率が、ナノフォトニックス技術により解消できると話す。この技術によって、光の反射をより少なくし、エネルギーのより効率的な吸収が実現できるというのだ。「21世紀後半には、世界の発電の半分以上を太陽光発電が占めるという研究結果も報告されています。今後、太陽電池の接続部などにかかるコストが改善され、エネルギー変換効率が高まれば、太陽光発電は、十分競争力のあるエネルギー源になるでしょう」とその未来を予想する。

ケシャブ・ダニ
ケシャブ・ダニ

フェムト秒分光の研究を専門にしているダニ准教授は、そのレーザーを使った応用について解説した。金属を通常のレーザーで切断した場合、切断時に熱が発生する。しかし、強力で超高速のフェムト秒分光レーザーでは、熱を発生させることなく一瞬にして、化学結合を部分的に切断できるという。このレーザーを用いれば、周りの組織を破壊することなく目的の箇所のみを切断できるというわけだ。フェムト秒分光レーザーは今後、精密金属加工だけではなく、柔らかい素材への応用が期待されており、数年内に角膜の手術に応用される可能性もあるという。また、「フェムト秒レーザーは、雷の方向を変えたり、台風をコントロールできる可能性があります」とダニ准教授。光には自然現象をも制御できる能力があるのだ。

光研究の第一人者たちが光の性質、そしてその応用例を分かりやすく解説してくれたおかげで、さまざまな分野で次世代の技術を切り拓いている光の魅力と重要性が十分伝わるイベントとなった。

第14回 Nature Café レポート PDFダウンロード

このレポートは、Nature ダイジェスト 2014年6月号に掲載されています。


パネリスト

Jeremy O’Brien(ジェレミー・オブライアン)

ブリストル大学 物理・電気工学教授、
量子フォトニクスセンター所長

Thomas F Krauss(トーマス・クラウス)

ヨーク大学物理学教授

Keshav Dani(ケシャブ・ダニ)

沖縄科学技術大学院大学准教授

モデレーター

堀内 典明(ほりうち のりあき)

Nature Photonics アソシエートエディター

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