Nature ハイライト

集団遺伝学:東アジア人集団の形成に関するゲノムからの知見

Nature 591, 7850

東アジア人の祖先を深くたどっての集団史は、古代DNAのデータが欠如しており、現代人のサンプリングが十分ではないため、ほとんど明らかにされていない。今回我々は、紀元前6000~紀元1000年の古代東アジア人166人および現代人の46集団のゲノム規模データの解析を行った。その結果、日本の縄文人、アムール川流域の狩猟採集民、新石器時代および鉄器時代の台湾人、チベット高原の集団は、古くに分岐した系統に関連しており、これらの人々が後期更新世にユーラシア沿岸に沿って移住してきたことが示唆された。我々はまた、4つの地域でその後の完新世に生じた集団の拡散についても検証した。その結果、第一に、モンゴルおよびアムール川流域の狩猟採集民は、モンゴル語族およびツングース語族の話者と祖先を共有するが、西遼河地域の農耕民(紀元前3000年頃)とは祖先を共有していなかったことが明らかになった。これにより、西遼河地域の農耕民の拡散がモンゴル祖語およびツングース祖語を伝播したとする仮説は否定された。第二に、黄河流域の農耕民(紀元前3000年頃)の系統はチベット高原および黄河中下流域の中原の両方に拡散しており(前者では一部集団の遺伝子プールの約84%を形成し、後者では現代の漢族集団の約59~84%に寄与している)、それらの集団がシナ・チベット諸語を広めたと考えられた。第三に、紀元前1300~紀元800年頃の台湾人の系統の約75%は、オーストロネシア語族、タイ・カダイ語族、オーストロアジア語族を話す現代人に共通する系統に由来しており、長江流域の農耕民に起源を有すると想定された。古代台湾人は、黄河流域の農耕民に近いがそれとは異なる北方の系統も約25%有しており、これによって、北方から南方への別の移住があったことが示唆された。第四に、ヤームナヤのステップ牧畜民の系統は、紀元前3000年頃以降にモンゴル西部に到達しながらも、それ以前に成立していた系統に取って代わられたが、中国西部では存続していた。これは、この系統がトカラ系インド・ヨーロッパ祖語の広がりと関係していたとすれば妥当である。モンゴル西部には、その後の2つの集団移住による遺伝子流入が影響を与えた。すなわち、ヤームナヤおよびヨーロッパの農耕民系統に由来する紀元前2000年頃以降の移住集団と、後のツラン系統を有する集団による散発的影響である。

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