エアロゾルが温室効果による温暖化を隠している
Nature Geoscience
2016年3月15日
大気中に放出されたエアロゾルによる冷却の効果で、1964年から2010年の間の陸上における温室効果ガスの放出に関連した温暖化のおよそ3分の1が隠れているとの報告が、今週のオンライン版に掲載される。また、もう1つの論文は、より地域的なスケールで、ヨーロッパの汚染レベルの減少(特に硫黄の放出)が過去30年間にわたる北極域温暖化の増幅に寄与していることを示している。
硫酸塩エアロゾルの放出は、歴史的に温室効果ガス放出と同時に起きてきた。大気中の硫酸塩エアロゾルレベルが高くなると、気候寒冷化をもたらし、入射する太陽放射を暗くして温室効果ガスの温暖化効果の一部を隠すことができる。
Trude Storelvmoたちは、全球の1300地点における温室効果ガス濃度、温度および地表の放射の観測値を解析したが、これは気候モデルのシミュレーションに基づく見積もりとは完全に切り離された手法である。彼らは、1964年から2010年の間における温度変化の原因について、温室効果ガスレベルの増加によるものとエアロゾル負荷の変化によるものとを区別した。この結果、彼らは、エアロゾルによる冷却は陸上の全球温暖化の3分の1と相殺し、全球の温度は、CO2濃度が産業革命前の倍に到達したときに、産業革命前よりも2℃高くなると見積もっている。
特にヨーロッパの大気汚染が北極域温暖化に及ぼす効果を見ることで、Annica Ekmanたちは、1980年以降の北極域が0.5℃温暖化したことを示唆する地球システムモデル・シミュレーションがヨーロッパの硫酸塩放出が減少したことで説明できることを示している。彼らは、入射する太陽放射が増加し、海洋と大気での極域への熱輸送が強化されて海洋の被覆を減少させ、それによって秋と冬に大気への熱の放出を起こす夏季に温暖化が始まることを発見した。
Ekmanたちの論文に関連するNews & Views記事で、Thorsten Mauritsenは、「究極的には、過去に北極域を温暖化させたのは、不確かで一時的なエアロゾルの冷却ではなく、二酸化炭素などの長寿命の温室効果ガスによる温暖化であり、それは今後も続く」と述べている。
doi:10.1038/ngeo2670
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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