神経科学:マウスの脳地図が構造と機能の関係性を明らかにする
Nature
2025年4月10日
マウスの脳細胞の構造とつながりを詳細に示した地図が、マウスの脳の活動との関連性を解明する手がかりとなることを報告するMICrONS(Machine Intelligence from Cortical Networks)コンソーシアムによる一連の論文が、今週Nature とNature Methods に掲載される。わずか1立方ミリメートルのマウスの脳(ヒマワリの種ほどの大きさ)から、約84,000個のニューロン、5億個のシナプス、および約5.4キロメートルの神経回路が、新たに開発された人工知能ツールによって追跡された。脳のごく一部ではあるが、この高解像度の接続マップは、脳がどのように組織化され、異なる種類の細胞がどのように連携しているかを説明するのに役立つ。
脳は、刺激によって活性化されシナプスによって結合するニューロンを含む細胞のネットワークで構成されている。認知機能の基本は、ニューロンの活性化と細胞の結合の相互作用である。哺乳類の脳回路についてさらに詳しく知るため、MICrONSコンソーシアムは、1匹のマウスの視覚野から神経細胞の形状と配線に関する膨大な高解像度マップを作成し、それらが機能と遺伝的同一性とどのように関連しているかを調査した。
研究チームはまず、トレッドミルで走りながら視覚画像を見ているマウスの約75,000個のニューロンの活動を記録した。このマウスは、ニューロンが活動すると蛍光タンパク質を放出するようにニューロンが改変されていた。これらのデータを、マウスの視覚野のわずか1立方ミリメートルの再構築された接続マップと照合した。サンプルの電子顕微鏡検査により、20万以上の細胞、約84,000のニューロン、5億2,400万のシナプス接続が確認された。論文では、異なる細胞の識別、接続の分析、配線図とニューロン活動の関連付けを行うためのツールについて説明している。これらの研究を総合すると、脳の特定部分の説明と、それらがどのように連携して機能するかの洞察が得られる。
マウスの視覚野は、人間を含む他の哺乳類との類似点があるため、研究対象として興味深い。しかし、これは脳のほんの一部にすぎない。完全な回路を研究するには、より広範なマップが必要であり、そのためにはコネクトミクス分野におけるツールやアプローチの進歩が必要であると、著者らは指摘している。「こうした限界があるにもかかわらず、この研究は大きな飛躍であり、神経科学における今後の発見において、コミュニティーにとってかけがえのないリソースとなるでしょう」と、Mariela PetkovaとGregor Schuhknechtは同時掲載されるNews & Viewsで述べている。著者らは、MICrONSプロジェクトを「哺乳類の脳構造と活動中の動物の神経活動を関連付ける、これまでで最も包括的なデータセット」と表現している。
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- Published: 09 April 2025
The MICrONS Consortium. Functional connectomics spanning multiple areas of mouse visual cortex. Nature 640, 435–447 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-08790-w
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- Published: 09 April 2025
Schneider-Mizell, C.M., Bodor, A.L., Brittain, D. et al. Inhibitory specificity from a connectomic census of mouse visual cortex. Nature 640, 448–458 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-024-07780-8
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- Published: 09 April 2025
Ding, Z., Fahey, P.G., Papadopoulos, S. et al. Functional connectomics reveals general wiring rule in mouse visual cortex. Nature 640, 459–469 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-08840-3
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- Published: 09 April 2025
Wang, E.Y., Fahey, P.G., Ding, Z. et al. Foundation model of neural activity predicts response to new stimulus types. Nature 640, 470–477 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-08829-y
- Article
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- Published: 09 April 2025
Elabbady, L., Seshamani, S., Mu, S. et al. Perisomatic ultrastructure efficiently classifies cells in mouse cortex. Nature 640, 478–486 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-024-07765-7
- The Microns Project: https://www.nature.com/immersive/d42859-025-00001-w/index.html
doi:10.1038/s41586-024-07780-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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