火星で生命を維持するための薄い層
Nature Astronomy
2019年7月16日
火星の表面をシリカエアロゲルの薄い層を用いて覆うことで、液体の水を通年で維持し、有害な紫外線(UV)放射から保護できる可能性があることを示した論文が今週掲載される。この方法により、広範な惑星規模の改変を行わなくても、光合成生物が火星上で発生できるようになるかもしれない。
火星表面の状況は、地球の生命に適していない。火星表面は、非常に低温のため液体の水を維持できず、UV放射から保護するためのオゾン層も存在しない。火星を、生命が生存するのにより適した環境にするためのいくつかの案が出されてきたが、そのような「テラフォーミング」プロジェクトはコストが高く、現在の技術では不可能である。
今回、Robin Wordsworthたちは実験室環境で、火星表面の状況を再現した。Wordsworthたちは、2~3センチメートルのシリカエアロゲルの層が、その下の表面の温度を50℃高められることを明らかにした。さらに彼らは、火星の気候モデルを用いて、シリカエアロゲルが、氷に富んだ温度領域において火星の一年を通じて数メートルの深さまで液体の水を保持できることを確認した。また、シリカエアロゲルは、UV波長の光を吸収する一方で可視光を透過させてその下の惑星の環境を保護しつつ、光合成に十分な光をもたらすことも分かった。
シリカエアロゲルはすでに大規模に製造されているため、著者たちは、地球上の極端な環境でのさらなる検証が可能だと述べている。一方で彼らは、火星でこの物質を用いることによる宇宙生物学的なリスクを理解する必要があると強調している。
doi:10.1038/s41550-019-0813-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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