医学研究:SARS-CoV-2が伝播するタイミングのモデル化
Nature Medicine
2020年4月16日
呼吸器疾患COVID-19の患者が感染性のSARS-CoV-2コロナウイルスを排出し始めるのは、最初の症状が現れる2~3日前からであるらしいことが、Nature Medicine に報告されたモデル化研究で示唆された。
SARS-CoV-2の拡散を防ぐために考えられた制御策の有効性には、複数の因子が影響することがある。その中には、伝播の連鎖の中にあって連続している2つの症例の時間的間隔(発症間隔)や、感染例への曝露から症状出現までの期間(潜伏期間)などが含まれている。発症間隔が潜伏期間より短かければ、明らかな症状が出現する前に伝播が起こったと考えられる。そのため、症状が現れた時点で実施される抑制策は、感染拡大を抑える効果が低くなる可能性がある。
今回、E Lauたちは、広州第八人民医院(中国)に入院した94人のCOVID-19患者でウイルス排出の時間的パターンを調べた。これらの患者からは、最初の症状が現れてから32日後まで、咽頭スワブが採取された。そして全部で414のスワブ検体の分析が行われ、患者のウイルス負荷が最も高かったのは、症状が出始めた時であったことが分かった。
その一方で、Lauたちは公開されたデータから得られた77対の「伝播ペア」 という別のサンプルを使って、COVID-19の感染力プロファイルをモデル化した。2人のCOVID-19患者からなる伝播ペアは、片方の患者がもう1人に疾患を感染させた可能性が非常に高く、2人の間の疫学的関連がはっきりしている。著者たちはここからスタートして、患者は症状出現の2.3日前から感染力を持ち始め、感染力がピークに達するのは症状が出る0.7日前であると推論した。そして、二次感染例の44%が症状出現前の段階の患者から感染したと見積もられ、感染力は7日以内に急速に低下すると予測された。
著者たちは、今回の研究の限界の1つとして、症状の始まった時期については患者の記憶に研究が依存している点を挙げ、最初の症状の認識が遅れる可能性があることで研究結果にバイアスが持ち込まれたかもしれないと補足している。
doi:10.1038/s41591-020-0869-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
注目のハイライト
-
医学研究:ブタから人間への肝臓移植の評価Nature
-
天文学:宇宙再電離の初期兆候Nature
-
化学: 永遠の化学物質の分解Nature
-
神経科学:マラソンランナーは脳内のミエリンの可逆的な変化を経験するNature Metabolism
-
加齢:健康的な加齢のための食事パターンの特定Nature Medicine
-
神経科学:鳥の脳が明かす言語の秘密Nature