免疫学:SARS-CoV-2に対する中和抗体の特定
Nature Communications
2020年5月5日
実験室環境でSARS-CoV-2ウイルスを中和できるモノクローナル抗体について報告する論文が、Nature Communications 発表される。ただし、今回の知見の臨床応用が可能かどうかは、今後の研究で明らかにしていく必要がある。
コロナウイルスを中和する抗体は、ウイルスの宿主細胞への侵入を媒介するウイルス表面上の三量体スパイクタンパク質(Sタンパク質)を標的とする傾向がある。Sタンパク質は、2つのサブユニット(S1とS2)からなり、S1が細胞への付着に関与し、S2がウイルス膜と細胞膜の融合に関与している。SARS-CoV-2(Wuhan-Hu-1株)とSARS-CoV(ウルバニ株)のSタンパク質のアミノ酸配列は、77.5%が同一で、構造的に非常によく似ている。これらのウイルスは、スパイクタンパク質のS1Bドメイン(S1の4つのコアドメインのうちの1つ)を介してヒト細胞表面のタンパク質ACE 2に結合することが知られている。
今回、Berend-Jan Boschたちの研究チームは、SARS-CoV-2を中和する可能性のある抗体を特定するため、異なるコロナウイルスのSタンパク質に対する抗体を産生するヒト化マウス由来の細胞株(51種)を作製した。そして、ヒトとラットに由来するキメラ抗体のアッセイを行い、SARS-CoV-2を中和できる抗体があるかどうか調べた。その結果、1種類の抗体(47D11)がSARS-CoVとSARS-CoV-2の両方に中和活性を示すことが分かった。このキメラ抗体が再構築され、完全ヒト型抗体が作製された。
さらに、Boschたちは、培養細胞で、47D11がSARS-CoVとSARS-CoV-2のS1B受容体結合ドメインを標的とすることを実証した。しかし、47D11の結合はS1BのACE 2への結合を阻害しないことが観察されたため、47D11のSARS-CoV-2とSARS-CoVの中和は、受容体結合阻害とは異なる機構であることが示唆された。この機構を正確に解明するには今後の研究が必要である。Boschたちは、47D11が単独で、あるいは受容体結合サブドメインを標的とする他の中和抗体を併用することで、将来的な治療戦略の開発に役立つ可能性があるという見解を示している。
doi:10.1038/s41467-020-16256-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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