免疫学:COVID-19患者の呼吸器系免疫応答の解析
Nature Medicine
2020年5月13日
COVID-19患者では、呼吸器系の免疫応答に異常が見られることがNature Medicine に報告された。9人のCOVID-19患者の気管支肺胞の免疫細胞が調べられたこの研究は、SARS-CoV-2(COVID-19を引き起こす新型コロナウイルス)に対する免疫応答の基盤となる仕組みを解明する助けとなりそうだ。
コロナウイルス感染に対する異常な免疫応答は動物モデルで明らかにされているが、SARS-CoV-2に対するヒトの呼吸器系免疫応答は、まだよく分かっていない。
Z Zhangたちは、COVID-19患者9人の気管支肺胞洗浄液(BALF)から抽出した免疫細胞を、単一細胞RNA塩基配列解読法を使って解析した。気管支肺胞洗浄は診断手法の1つで、鼻あるいは口から肺内部へと管を挿入して、生理食塩水を肺へと注入し、これを回収して検査を行う。患者のうち6人は重症/重篤(severe/critical)に分類され、その大半は機械的人工換気を必要とした。3人は中等症(moderate)と診断され、発熱と肺炎が見られた。患者の年齢の中央値は57歳で、6人が男性、3人は女性である。著者たちは、対照として3人の健常者と公的に入手できたBALF試料1例についても調べた。
重症/重篤な患者からのBALF試料には、中等症患者や対照群由来のBALFに比べて、マクロファージと好中球(白血球の一種)が高い濃度で含まれていた。また重症/重篤患者では、炎症性サイトカイン、ケモカイン(免疫細胞から放出されるシグナル伝達タンパク質)の濃度も高かった。このことから、著者たちは重症/重篤なCOVID-19患者の肺には、炎症性マクロファージ微小環境が存在すると推論している。また、これらの試料に含まれるT細胞(別の種類の白血球)の多様性についても解析が行われ、重症/重篤患者では増殖中のT細胞の割合が高いことが明らかになったが、抗ウイルス免疫応答で感染細胞を殺すという重要な役割を果たすCD8+T細胞の割合は、中等症の患者よりも低かった。
これらの知見は、COVID-19ではマクロファージ応答とT細胞応答が異例なものとなっている可能性を明らかにしている。しかし著者たちは、この研究では試料数が限られていること、感染の前と後で採取した長期的な変化を見るための試料がないことなどの限界があると警告している。
doi:10.1038/s41591-020-0901-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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