経済学:ロックダウンがグローバル・サプライチェーンに及ぼす影響
Nature Human Behaviour
2020年6月3日
COVID-19関連のロックダウン措置の期間とロックダウン実施国の数は、制限の厳しさよりも、グローバル・サプライチェーン(商品やサービスの世界規模の生産と流通のシステム)に大きな影響を与えることを示したモデル化研究が、Nature Human Behaviour に掲載される。また、今回の研究からは、疾病を根絶する可能性のある封じ込め措置を徐々に緩和することで、制限を速やかに解除した後に再度ロックダウンを導入しなければならない場合よりも損失が小さくなることも示唆された。
COVID-19のパンデミックは現在、世界中のほぼ全ての国に広がっており、旅行、社会的交流、商業活動に対する厳格な制限といった封じ込め措置が取られている。今回、Dabo Guanの研究チームは、経済災害モデルを用いて、さまざまな封じ込め法がグローバル・サプライチェーンに及ぼす短期的な影響を定量化し、パンデミック関連の損失がサプライチェーンに沿ってどのように分布するかを調べた。
Guanたちは、4セットの封じ込めシナリオに基づいて39の個別のシナリオをモデル化した。3セットのシナリオは、ウイルスの地理的な分布、ロックダウンの期間、厳格さ(労働力や輸送手段の利用可能性がパンデミック前のレベルに対して減少する割合)に基づいている。4つ目のセットは、ロックダウン緩和された場合の潜在的な影響がモデル化したもので、制限がさらに長期にわたって続けられる場合や、再び制限をかけなくてはならない場合に想定される損害を含む。
中国だけで、80%の厳格さで2か月間のロックダウンが実施されるシナリオでは、サプライチェーンへの影響が世界のGDPの3.5%に相当することが分かった。しかし、同じシナリオが全世界で実施された場合、この数字は26.8%に上昇した。厳格さが80%のロックダウンを2か月から4か月へ延長すると、世界の経済損失は20兆から22.7兆ドルへと増加した。Guanたちはまた、コロナウイルスの直接的な影響を受けない国々でも、影響を受けた国の封じ込め政策の結果として大きな経済的損失が生じ、低・中所得国は特にこのような間接的な影響に脆弱であることを明らかにしている。
Guanたちは、制限解除についての3つの回復シナリオをモデル化し、12か月かけて制限を解除して、労働力と輸送量の20%減少を伴う場合、制限を速やかに解除した後に再びロックダウンを導入しなければならない場合よりも損失が少ないことを明らかにしている。また米国においては、12か月にわたって緩やかに制限を解除した場合に予測される損失は、制限を速やかに解除した後に再びロックダウンを導入しなくてはならない場合よりも、24.6~54.8%小さくなることも見いだされた。
Guanたちはまた、パンデミックが再び起こった場合、(国際協調の影響を受ける可能性はあるものの)より短期、かつより厳格なロックダウンの実施によって、世界的な経済的損失を約11%減少させられる可能性があると示唆している。疾病を根絶すると同時に、国内および世界規模のサプライチェーンに対する経済的影響を最小限に抑えるためには、国境を越えた集団的な取り組みが必要であると、Guanたちは主張している。
doi:10.1038/s41562-020-0896-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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