社会科学:COVID-19の世界的流行に対する感染防止対策の効果を評価する
Nature
2020年6月8日
SARS-CoV-2の感染拡大を抑制するために6か国の政府が実施してきた大規模な感染防止対策(ロックダウン、移動の制限など)の効果の定量化について報告する論文が、Nature に掲載される。Solomon Hsiangたちは、計量経済学的方法を用いて、こうした対策の健康増進効果を明らかにし、6か国全体でCOVID-19の確認例(約6200万例)において予防効果あるいは感染を遅らせる効果があったと考えている。
現在のCOVID-19のパンデミックの間、世界各国の政府は、ロックダウン(都市封鎖)、移動の制限、学校や企業の閉鎖を含む多様な社会措置を導入し、人と人との接触を制限することによってSARS-CoV-2ウイルスの伝播を抑制することを目指しているが、こうした社会措置は、社会的、経済的に多大なコストを伴う可能性がある。疫学的モデリングは、どの対策を採用するのかという決定を行う際に参考となる情報をもたらすが、こうした社会措置が感染者数に及ぼす影響を疫学的モデルによって直接評価することには困難を伴う。
今回、Hsiangたちの研究チームは、毎日のSARS-CoV-2感染者数、COVID-19症例の定義、2020年4月6日までに中国、韓国、イタリア、イラン、フランス、米国で実施された感染防止対策の実施時期のそれぞれに関するデータを解析して、特定の地域や地方あるいは国内全域に適用される合計1700種以上の措置の実施前後の感染拡大速度を比較した。
その結果、感染防止対策が実施されていない初期のSARS-CoV-2感染者数が、イランで1日当たり68%増加し、その他の5か国では1日当たり平均38%増加したことが分かった。Hsiangたちは、政策が経済成長に及ぼす影響を評価する際に用いられるのが通例となっている計量経済学的モデリングを行って、大規模な社会措置がSARS-CoV-2感染の拡大速度を著しく低下させ、ほとんどの場合で測定可能な健康増進効果が得られたことを明らかにしている。また、Hsiangたちは、調査対象となった6か国全部で、一連の感染防止対策が約6200万の確認例において予防効果あるいは感染を遅らせる効果をもたらし、約5億3000万人の感染が回避されたという推定結果を示している。
Hsiangたちは、地方レベルのデータが充実すれば、今回の研究で得られた知見をさらに精緻化できるという考えを示している。一方で、このような経験的観察結果を疫学的シミュレーションと組み合わせれば、各国政府が各種措置の延長や解除の是非と時期を判断する際に有益な情報として役立つ可能性がある。
doi:10.1038/s41586-020-2404-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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