創薬:HIV感染症の新たな治療薬候補
Nature
2020年7月2日
HIV感染症の治療薬としての可能性を示す新しい長時間作用型抗レトロウイルス薬について記述した論文が、今週、Nature に掲載される。予備的臨床試験では、この抗レトロウイルス薬の単回投与によって、HIV感染症患者のウイルス量が減少し、患者の体内で抗レトロウイルス薬の活性が投与後6カ月以上にわたって維持されることが実証された。
HIV感染症の管理には、経口投与が毎日必要な抗レトロウイルス薬が用いられるが、患者の一部は、治療効果を低下させる薬剤耐性を経験する。新たな長時間作用型の薬物は、HIVの薬剤耐性株を保有する患者に対する治療選択肢を増やすとともに、患者の治療レジメンのアドヒアランスを高める可能性がある。
Stephen Yantたちの研究チームは今回の論文で、HIVのキャプシド(ウイルスのゲノムを包むタンパク質の殻)の機能を阻害する低分子薬GS-6207の開発について記述している。Yantたちは、以前の研究を基に、GS-6207がキャプシドタンパク質に強固に結合し、ウイルスの複製に不可欠な複数の相互作用を阻害するように設計した。GS-6207は、複数のHIV株に対して活性があり、抗レトロウイルス薬の承認薬と相乗的に作用することが実験室での実験によって示された。このことから、GS-6207は併用療法に理想的な薬剤となる。また、健常者40人が参加した臨床試験では、皮下注射により投与されたGS-6207が概して安全で、その忍容性は良好であり、体内での活性は投与後6カ月以上にわたって維持されることが明らかになった。その後の、未治療のHIV-1感染患者32人が参加した第1相の概念実証試験では、GS-6207の単回投与から9日後にウイルス量が減少した(ただし、ウイルスは完全には除去されなかった)。
HIV感染症の治療に用いられる低分子抗レトロウイルス薬の大半は、ウイルスの酵素を阻害することによって作用するが、今回の知見から、キャプシドタンパク質を標的とする方法がHIV感染症の有望な治療法であることが裏付けられた。Yantたちはまた、GS-6207は少ない投与回数で済むため、リスク集団におけるHIV感染予防薬の候補になると考えているが、今回の研究でこの見解の検証は行われていない。
doi:10.1038/s41586-020-2443-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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