免疫学:COVID-19から回復中の患者の血中抗体と免疫細胞応答の解析
Nature Medicine
2020年7月13日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復したオーストラリアの成人41人の血漿中には、この疾患を引き起こすウイルスSARS-CoV-2の「スパイク」タンパク質に対する抗体、記憶B細胞、血中濾胞性ヘルパーT細胞(cTFH cell)が大量に存在していたが、これらの抗体や免疫細胞が持つ、ウイルスを中和し、宿主細胞への結合を阻害する能力は一貫していなかった。Nature Medicine に掲載されるこの報告によれば、COVID-19から回復したこれらの患者全てで、SARS-CoV-2スパイクの糖タンパク質(ウイルスは、このタンパク質の働きによって細胞に結合し侵入する)を免疫的に認識したことを示す特徴が複数見られたが、患者の血漿の持つ中和能力は大きくばらついていた。この結果からすると、ワクチンは最も強力な中和エピトープを選んで標的としなければいけないかもしれない。
SARS-CoV-2に対するワクチンは緊急に必要とされており、ウイルスのスパイクタンパク質を標的として、ヒト受容体タンパク質ACEへの結合を妨げる中和抗体を誘発するという戦略は興味をそそる。しかし、スパイクタンパク質を狙った試作ワクチンは、動物モデルでは有望と思われたが、ヒトでのスパイクタンパク質特異的免疫応答についてはまだ解明が進んでいない。
A WheatleyとS Kentたちは、症状が軽度から中等度のCOVID-19から回復したオーストラリアの成人患者41人から、PCR検査で陽性が判明してからほぼ32日後の時点で血漿と末梢血細胞を採取した。24人が男性、17人が女性で、平均年齢は59歳である。スパイク特異的抗体、スパイク特異的記憶B細胞(白血球の一種で抗体を産生する)、それにスパイク特異的cTFH細胞(白血球の一種でB細胞免疫を調節する)が、調べた患者全員で見つかった。しかし、患者の免疫血漿が持つ、ACE2とウイルスの結合部位との相互作用に対する阻害活性は、平均すると弱かった(ほぼ14%にすぎない)。統計解析によって、強力な中和活性が血漿中に生じるかどうかは、スパイク特異的抗体の量だけでは決まらず、それに加えて、特定のケモカイン受容体(複数)を発現するスパイク特異的cTFH細胞の亜集団(複数)が相対的にどのくらい存在するかに左右されることが分かった。
これらの知見は、特異的な表面と機能特性を持つB細胞とcTFH細胞が、今後のワクチンの標的として有用である可能性を示唆していると、著者たちは考えている。多様なワクチンに反応して誘発される中和抗体とcTFH細胞との相互作用を理解するには、もっと大規模な集団でさらに研究を進める必要があるだろう。
doi:10.1038/s41591-020-0995-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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