社会科学:米国での休校措置が及ぼす影響は民族的マイノリティーや低収入家庭に偏っている
Nature Human Behaviour
2021年3月18日
米国の10万校以上の学校の実際の登校状況を追跡し、学校が休校されているかどうか、遠距離学習に行っているかどうかを推定するためのインタラクティブなデータベースがNature Human Behaviour に掲載される論文で示されている。得られた知見から、民族的・人種的マイノリティーの生徒の多い学校、あるいは低収入世帯の生徒の多い学校、そして試験の点数が平均以下の学校ほど、遠距離学習を行っている傾向が高いことが明らかとなった。
休校は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染拡大を防ぐために必要であるが、子どもの発達に大きな影響を及ぼしている。これまでの研究から、子どもたちは、遠距離学習では学ぶ量が少ないことが明らかになっている。しかし、遠距離学習を行っている生徒の社会経済的、地理的、人口統計学的な特徴についてはほとんど分かっていない。
今回、Zachary ParolinとEmma Leeの研究チームは、匿名化された携帯電話データを用いて、2019年1月〜2020年12月の米国の幼稚園から12年生まで10万校以上の学校の実際の登校状況を追跡した「米国休校・遠距離学習データベース」(U.S. School Closure & Distance Learning Database)を開発した。そして著者たちは、得られたデータと学校レベルの指標を組み合わせることで、各校の生徒の構成を解析した。
その結果、2020年9月から12月にかけて休校が広く行われたのは、1)3年生の数学の試験の点数が低い学校、2)人種的・民族的マイノリティーの生徒の占める割合が高い学校、3)ホームレスを経験した生徒、給食費の無料・減免の資格を有する生徒、英語が堪能でない生徒の割合が高い学校であることが明らかとなった。人種的・民族的背景については、2020年10月時点で遠距離学習を行っていた生徒は、白人では35%であったのに対し、黒人では52%、ヒスパニック系では60%、アジア系では65%であった。また、3年生の数学の成績が低い学校は、成績が平均的な学校と比べて、学校が休校になっている可能性が約15%高いことも判明した。
著者たちは、休校は、米国の教育システムにすでに存在する不平等を悪化させる可能性が高いと示唆している。このデータベースは公開されており、毎月更新される予定であり、休校が教育や社会経済的な転帰に及ぼす影響を調べる研究者にとって役立つだろう。
doi:10.1038/s41562-021-01087-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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