COVID-19:46%のワクチンを再分配することは高所得国にも低所得国にも有益である
Nature Human Behaviour
2022年2月1日
高所得国から低・中所得国へ無償提供される新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンを高所得国の総供給量の46%に増やせば、低・中所得国における死亡率の大幅な低下につながり、また世界規模で新たな変異株やパンデミック(世界的大流行)の波から保護される可能性があることが、モデル化研究によって明らかになった。この知見を報告する論文が、Nature Human Behaviour に掲載される。今回の知見は、世界的なワクチンの公平な分配が、新規株に起因するパンデミックの波を抑制するために不可欠であり、低・中所得国へのワクチンの迅速でより寛大な無償提供によって実質的に達成可能なことを強調している。
COVID-19ワクチンの世界への分配は不均衡であり、高所得国には低・中所得国よりもはるかに多く分配されている。この不公平な状況は、低・中所得国において高い感染率と死亡率を継続的に招いている一方で、最近の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の新たな変異株の出現は、高所得国による疾患抑制と経済回復の取り組みを脅かしている。
今回、Qingpeng Zhang、Daniel Zengたちは、数学的モデルを使って、SARS-CoV-2株の進化と世界的な死亡率の上昇を背景として、今後5年間のワクチンの不公平な分配の帰結を予測した。公平でないワクチン接種は、高所得国で最初の1年間において死亡率のより迅速な低下につながるものの、世界規模のパンデミックの期間は長期化する。低・中所得国において新規株が出現する可能性が高くなるほど世界的なリスクが高まるため、高所得国は1年目以降、感染の増加に対して脆弱になる。反対に、公平なワクチン分配戦略をとれば、新規株の蔓延を大きく抑制し、高所得国と低・中所得国の双方に大きな利益をもたらし得る。ワクチンの無償提供を高所得国の総ワクチン供給量の46%に増やすことで、低・中所得国における死亡率の大幅な低下につながることが見込まれ、全ての国々が新規株やパンデミックの波から守られる可能性がある。
著者たちは、今回の知見は、SARS-CoV-2の新規株の出現に対するワクチンの長期的影響を調べることの価値だけでなく、世界的なワクチン分配戦略を改善する必要性も強く示していると結論付けている。関連するNews & Viewsでは、Dan Yaminが、「低・中所得国におけるCOVID-19ワクチン接種を支援することは、高所得国にとって実質的に健全な道義的責任であり、高所得国自身の利益にもなり得る」とが述べている。
doi:10.1038/s41562-022-01289-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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