神経科学:脊髄の個別化治療によって完全麻痺後の運動機能が急速に回復
Nature Medicine
2022年2月8日
感覚運動が完全に麻痺した場合に、個別に調節した脊髄電気刺激(脊髄損傷に合わせて特別に設計したへら状の電極を使う)を行うと、治療開始後数時間以内に自力での移動運動が再びできるようになることが、3人の患者で明らかになった。この報告によって、用途に特化した刺激療法は、最も重度の脊髄損傷を受けた後であっても優れた有効性を発揮し、多様な運動機能が回復することが明確に示された。
脊髄の電気刺激は、脊髄損傷患者で運動機能を回復させるための有望な選択肢の1つである。これまで行われてきた刺激法は、本来は疼痛治療用に設計されたニューロ技術を転用して患者の脊髄に継続的な電気刺激を加えていた。しかし、このような電気刺激装置の転用では、脚や体幹の動きに関わる脊髄の神経全てを刺激することができないため、これが全ての運動機能の回復を制限していた可能性がある。
G Courtine、J Blochたちは、脊髄中にあって脚と体幹の動きに関係する神経全てを標的にできる新しいへら状の電極を設計した。この技術をコンピューターによる個別化治療の枠組みと組み合わせることで、このへら型電極の位置を患者ごとに正確に配置し、活動に応じた刺激プログラムを個別化することが可能になった。完全な感覚運動麻痺の患者3人(全員男性、年齢は29~41歳)で最適化されたこの脊髄刺激法を使うと、自力歩行や自転車走行、水泳などの運動活動性がわずか1日の間に急速に回復した。神経リハビリテーションはさらに回復を助け、患者たちはこれらの活動を実生活の中で行えるようになった。
これらの知見は、現在進行中の臨床試験の一部だが、目的に合わせた特別の装置を使う個別化脊髄刺激治療の優れた効果を明確に示している。これは、重症度がさまざまな脊髄損傷患者に臨床的に意味のある機能改善をもたらすことができる治療法といえるだろう。
doi:10.1038/s41591-021-01663-5
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