生物工学:遺伝子操作した細菌が、排ガスから工業化学物質を生産する
Nature Biotechnology
2022年2月22日
温室効果ガスである二酸化炭素など、工業過程で放出されて汚染をもたらすガスは、遺伝子操作した細菌を用いることで、2種類の有用な化学物質(アセトンとイソプロパノール)に変換できることを報告する論文が、Nature Biotechnology に掲載される。この方法は、これらの化学物質を石油や天然ガスから製造する現在の方法に代わるカーボンネガティブな(二酸化炭素の発生量よりも吸収量の方が多い)方法となる。
食品工業でヨーグルトやビールなどの製品を生産するために使われる微生物発酵は、非化石燃料を原料としてさまざまな化学物質を製造する方法として期待されている。この分野の研究の大半では、糖を発酵させる微生物が使われているが、原料として糖を使用するのはコストが高く、製造過程での温室効果ガスの総排出量が高くなる。しかし、ある種の細菌はガス発酵を行う能力を持ち、二酸化炭素のようなガスをもっと複雑な分子に変換できる。これによって、工業過程で放出されたり、バイオマスや都市ゴミから発生したりするガスを、有用な産物に変化させる道が開ける。
今回、Michael Köpke 、Michael Jewettたちは、細菌Clostridium autoethanogenumを遺伝子操作して、通常は生産しない化学物質を合成させる方法を明らかにした。著者たちはまた、工業規模でのパイロット実験を行い、アセトンとイソプロパノールという2種類の化学物質[2つを合わせると、世界の市場規模は100億ドル(約1兆1000億円)を超える]を非常に高い効率で選択的に合成できることを実証した。これらの化学物質を石油や天然ガスから製造する既存の工程は気候変動を悪化させる要因となるが、今回の著者たちの系は、放出する量以上の炭素を固定するので、二酸化炭素排出量はマイナスになる。
著者たちは、今回のアセトンとイソプロパノールの持続可能な代替製造法は、他のさまざまな有用化学物質の製造に応用できるだろうと述べている。
doi:10.1038/s41587-021-01195-w
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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