Research Press Release

環境:南極の人為的汚染は融雪を加速させる可能性がある

Nature Communications

2022年2月23日

南極大陸の観光客が上陸する地域や研究施設の付近での黒色炭素汚染によって、これらの地域の融雪が増える可能性のあることを報告する論文が、Nature Communications に掲載される。今回の知見から、黒色炭素の影響が最も大きい地域では、毎年夏になると、雪塊(地面に積もった雪)が23ミリメートル減少する可能性が示唆されている。

化石燃料やバイオマスを燃焼させると、黒色炭素が発生する。黒色炭素は、太陽光を吸収し、大気を暖める。黒色炭素が雪に沈着すると、熱が閉じ込められ、融雪が進む。南極におけるヒトの存在はここ数十年で大幅に増え、最近の訪問者の急増に伴って、南極における黒色炭素排出量の影響が大きくなった可能性が高いが、まだ定量化されていない。

今回、Sarah Feron、Raúl Corderoたちは、南極半島北部の2000キロメートルにわたる地域で雪試料を採取し、黒色炭素濃度を測定した。南極半島北部は、観光客の大半が集まり研究活動の大部分が行われている地域と、もっと辺鄙な地域からなる。測定の結果、研究施設や観光客が上陸する地域の付近の雪試料には、辺鄙な地域の雪試料よりも黒色炭素が多く含まれていることが分かった。Feronたちの計算によれば、黒色炭素の影響が大きな地域では、毎年夏になると、雪塊が最大23ミリメートル減少するとされた。Feronたちは、2016~2020年の観光シーズンに年平均5万3000人の観光客が南極を訪れたと推定し、1人の観光客に起因する黒色炭素量が、毎年夏の約83トンの融雪に寄与する可能性があるという見解を示している。

Feronたちは、南極大陸で最も訪問者の多い地域での人間活動による負担を軽減するためには、黒色炭素の蓄積を減らす方法(もっとクリーンなエネルギーや、ハイブリッド船や電気船の使用、観光客の人数制限など)が必要だと主張している。

doi:10.1038/s41467-022-28560-w

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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