考古学:人工知能を利用した碑文の復元
Nature
2022年3月10日
古代ギリシャの碑文を復元できるように訓練されたディープニューラルネットワークを複数の歴史学者が利用すると、最高72%の精度が達成されることを示唆する論文が、今週Nature に掲載される。今回の研究で得られた知見は、新たに発見された碑文や不明瞭な碑文の復元と作成年代や作成場所の推定を、スピードと正確さを向上させることで支援し、古代史の理解を進めることができるかもしれない。
歴史学者は、古代文明の歴史を解明するため、今日まで残っている素材(石、陶器、金属など)に過去の人々が直接記した碑文の研究をしている。しかし、数多くの碑文は、何世紀にもわたって損傷し、今では判読不能状態にあり、作成年代もはっきりしない。碑文研究の専門家であるエピグラファーは、欠落した文章を復元できるが、彼らの伝統的な方法は非常に複雑で膨大な時間を必要とする。
今回、Yannis AssaelとThea Sommerschieldたちは、現在の碑文研究の手法の制約を克服するため、古代ギリシャの碑文の復元や作成年代・作成場所の推定ができるように訓練された人工知能の一種であるディープニューラルネットワーク(「イサカ」と命名)を検証した。Assaelたちは、イサカ単体で損傷した碑文を復元する場合に62%の精度が達成され、複数の歴史学者がイサカを利用した場合に72%の精度が得られることを明らかにした。また、イサカが碑文の作成場所と作成年代を特定するためにも役立つ可能性も明らかになった。今回の研究における実験で、イサカは、71%の精度で碑文の作成場所を推定し、作成年代の推定も、歴史学者によって提案された作成年代から30年未満の範囲内におさまった。
今回の研究で得られた知見は、人工知能と歴史学者の協力の可能性をこじ開け、人類の歴史のさらなる解明につながるかもしれない。
doi:10.1038/s41586-022-04448-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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