がん治療:成人がん患者のメンタルヘルスと自殺リスクの調査
Nature Medicine
2022年3月29日
精神疾患と診断されたがん患者は、他のがん患者に比べて死亡率が高く、自傷のリスクも大きいことが報告された。また別の研究では、がん患者は一般の集団に比べて自殺による死亡のリスクがほぼ2倍に上ることが明らかになった。これらの知見は、主ながんの成人患者での精神疾患と自傷行為を合わせた全負荷について、これまでで最大規模の集団で行われた解析に基づいている。
がんの治療法はこの数十年間に進歩し、予後も改善したが、がん患者の自殺による死亡リスクは依然として高い状態にある。しかし、がんの場合にメンタルヘルスが自殺や生存転帰にどのように影響するかはいまだに分かっていない。その原因としては、こういった影響を実証するのに十分なサンプルサイズでの研究が行われていないことが大きい。
今回、W H ChangとA Laiは、約23年間をカバーする2つの大規模な電子健康記録データベースから得た集団ベースのデータを解析して、年齢18歳以上の45万9542人で26種類のがんにわたって精神疾患と自傷行為の症例を調べた。がん患者で最も多く見られる精神疾患はうつであることが分かった。また、精神疾患の慢性的負荷が最も高いのは、化学療法、放射線療法、外科手術、アルキル化剤投与(ある種のがんの治療に使われる)を受けている場合、および精巣がんの場合であることも判明した。精神疾患(うつ、不安症、統合失調症、双極性障害、パーソナリティー障害など)は、精神疾患診断後12か月以内のあらゆる種類の死亡リスク上昇と自傷リスク上昇に関連していた。
もう1つの研究では、C Seligerたちが4600万人以上の患者を含む62の研究を系統的に検証し、メタ解析を行って、がん患者の自殺による全死亡率を割り出した。このような患者は一般の集団に比べて、自殺によって死亡するリスクが2倍近く高く、特に肝臓がん、胃がん、頭部がんなど予後が不良であることが知られているがんの患者では、自殺による死亡率は3.5倍に上ることが分かった。
これらの知見は、最もリスクの高い患者を優先して自殺願望の早期の兆候を見つけ、自殺の短期的・長期的リスクを下げることにより、がん治療と精神医学的ケアを協力して行っていくのに役立つだろう。
doi:10.1038/s41591-022-01740-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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