神経科学:シロシビンによるうつの治療で脳の接続性が高まる
Nature Medicine
2022年4月12日
シロシビンは自然界に存在する幻覚剤だが、治療抵抗性のうつ病患者への投与で治療応答が見られたことが報告された。その作用は脳の機能的ネットワーク間の接続性を高めることによるもので、これは従来型の抗うつ剤エスシタロプラムでは見られない作用機構である。この知見は、うつ病の治療抵抗性の原因となる経路についての手掛かりとなるだろう。
うつ病の患者では、「負の認知バイアス」として知られる特徴、厭世観、認知の柔軟性の不足、硬直した思考パターン、「自己」や「未来」に関する否定的な固定観念などが見られることが多い。これまでに少なくとも6つの臨床試験で、シロシビン治療によってうつ症状が改善したことが報告されている。このような結果はあるものの、シロシビンや同類の幻覚剤の治療作用は、いまだに十分解明されていない。
R Dawsたちは今回、シロシビンの効果を調べた2つの臨床試験に参加した59人の患者のサンプルから脳の画像データを集めて解析を行った。1つ目の臨床試験の被験者は、治療抵抗性のうつ病(複数の抗うつ剤治療によってもうつ症状が改善しない大うつ病性障害と定義される)の患者16人(平均年齢42.75歳、女性が25%)である。2つ目の臨床試験では、大うつ病性障害患者43人の画像データが解析された。43人のうち22人(平均年齢44.5歳、女性が36%)はシロシビン投与を受け、21人(平均年齢40.9歳、女性が29%)は従来型の抗うつ剤エスシタロプラムと低用量のシロシビンを投与された。全体として、シロシビン治療は迅速に十分な持続的抗うつ作用を示し、その作用はエスシタロプラムよりもかなり強いことが分かった。うつ症状の緩和は、脳の機能的ネットワーク間の接続性の強化と有意な相関が認められた。脳のモジュール型構成のこのような明らかな変化は、シロシビンが脳機能に及ぼす急性作用の「キャリーオーバー(持ち越し)」効果によく似ており、このような変化はエスシタロプラム投与患者では観察されなかった。
これらの知見は、シロシビンは(そしておそらくは他の幻覚剤も)従来の抗うつ剤とは違う新しい作用機構を持つことを示唆している。特に、シロシビン治療は固定した脳のネットワークを解放し、脳の統合的で柔軟性のある働きを促進することによってうつを緩和し、心の健康の改善に役立つ可能性がある。
doi:10.1038/s41591-022-01744-z
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