COVID-19:小規模研究から、パンデミック時の母体の心理的苦痛が胎児脳の発達の変調に関連している可能性が示唆された
Communications Medicine
2022年5月27日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック(世界的大流行)時の妊娠中の母体の自己報告に基づく心理的苦痛が、発育中の胎児の脳に生じた変調に関連している可能性があることを報告する論文が、Communications Medicine に掲載される。今回の研究には、パンデミック時(2020年6月~2021年4月)に妊娠していた女性65人と、パンデミック以前(2014年3月~2020年2月)に妊娠していた女性137人が参加した。パンデミック時に評価対象となった参加者で、COVID-19の原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に感染した人はいなかったことが明らかになっている。今回の研究では、COVID-19感染の影響ではなく、パンデミック自体が妊婦と発育中の胎児に及ぼす潜在的影響の評価が行われた。
今回、Catherine Limperopoulosたちは、COVID-19パンデミック以前とパンデミック時に妊娠していた母親の子宮内の胎児の脳の画像を磁気共鳴画像法(MRI)で撮影して、大脳の脳回形成、脳表面のしわの寄った形状(脳回化)、しわの深さ(脳溝深さ)などの脳の表面構造を評価した。
Limperopoulosたちは、202人の参加者のうち173人の母親に質問して、妊娠中に経験した苦痛(不安、ストレス、うつ状態など)があったかを調べた。その結果、パンデミック時に妊娠していた母親の方が、ストレスとうつ状態を報告する割合が相対的に大きいことが判明した。全体で見ると、パンデミック以前に妊娠していた女性のコホートの34人(27.6%)と、パンデミック時に妊娠していた女性のコホートの26人(52.0%)が、大きな心理的苦痛を受けたと判定された。不安を感じた妊婦の割合は、コホート間で差がなかった。
パンデミック時に妊娠していた女性の胎児は、パンデミック以前に妊娠していた女性の胎児に比べて、3つの脳構造の容積値(大脳白質、海馬、小脳の容積)が少なかったことも判明した。これらの脳構造の発達は、不安、ストレス、うつ状態の評点と負の関連を示した。ストレスが低かったと自己報告した母親を分析対象に含めたところ、この低ストレス群の妊婦の胎児の方が、パンデミック以前に妊娠していた女性の胎児と比べて、3つの脳構造の容積値が少なかった。Limperopoulosたちは、こうしたデータの変動と一貫性の欠如は、胎児の脳発達に複数の要因が関係していることを示していると示唆している。
パンデミック時に妊娠していた女性のコホートについて、胎児の脳の構造を観察したところ、大脳皮質の表面積と局所脳回指数が大脳の4領域全てで小さかった一方、脳溝深さは、左前頭葉、頭頂葉、後頭葉のみで小さかったことが明らかになった。Limperopoulosたちは、これらの指標が脳回化の遅延を示している可能性があると考えている。
Limperopoulosたちは、複数の知見を比較したときの差異は、数多くの要因が母体のストレスを高めるだけでなく、胎児の脳の発達に影響を及ぼしていることを示唆している点に注意を促している。また、この論文では、197人の母親について、親の学歴の影響が、胎児の脳の発達と特に関連している可能性のあることが論じられている。データの変動があるといる事実は、母親と子どもへの介入が可能になるかもしれない可塑性の期間が存在することを示唆している。Limperopoulosたちは、今回の研究で明らかになった変化可能性の長期的影響について調べておらず、この点は今後の研究で課題となり得ると示唆している。
doi:10.1038/s43856-022-00111-w
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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