ワクチン接種後にSARS-CoV-2に感染した場合の死亡と後遺症のリスク
Nature Medicine
2022年5月26日
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)ワクチン接種後に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかった人たちでも、診断から6か月後に後遺症(long COVIDと呼ばれている)に関連する症状を経験することがあるのが、1300万人を超える退役軍人を調べた米国での研究により明らかになった。このような場合の後遺症のリスクや死亡のリスクは、ワクチン接種を受けていないCOVID-19患者に比べれば低いものの、季節性インフルエンザ患者に比べると高い。Nature Medicine に掲載されるこの研究では、感染防御戦略の最適化に加えて、long COVID治療のクリニカルパス開発の必要性が述べられている。
SARS-CoV-2感染後の後遺症であるlong COVIDの症状は詳細に報告されてきたが、このような症状が、ワクチン接種後のSARS-CoV-2感染(BTI:ブレイクスルー感染とも呼ばれる)でも見られるのかどうかは、現在のところ分かっていない。
Z Al-Alyたちは、米国退役軍人省の国家医療記録データ(national healthcare data)を使って、ワクチン既接種者(総数3万3940人、ヤンセン社製ワクチンの1回接種、もしくはモデルナ社製ワクチンかファイザー-ビオンテック社製ワクチンの2回接種を完了した人とする)のBTIに関する長期的および短期的リスクを調べ、複数の対照群(総数1333万5133人)と比較した。ワクチン接種済みでBTIを起こすと、SARS-CoV-2の検査で一度も陽性になったことのない人たちと比べた場合、診断から6か月後の時点の死亡リスクが高く(1000人当たりの死者数が13.36人多い)、肺や心臓血管の不調のようなlong-COVIDの症状を発症するリスクも高い(少なくとも1つの症状のある人が、1000人当たり122.22人多い)と、著者たちは推定している。
ワクチン既接種だがBTIでCOVID-19と診断された患者は、ワクチン未接種のSARS-CoV-2感染者(総数11万3474人)と比べた場合、診断後30日以内の死亡数は1000人当たり10.99人少なく、また後遺症の症状が少なくとも1つある人は1000人当たり43.38人少ないことがわかった。さらに別の分析では、ワクチン既接種だがBTIで入院した患者(総数3,667人)は、季節性インフルエンザでの入院患者(総数1万4337人)と比べると、診断後30日以内の推定死亡リスクが高く(1000人当たり43.58人多い)、long COVIDを発症する推定リスクも高い(少なくとも1つの症状のある人が1000人当たり87.59人多い)ことが分かった。
著者たちは、これらの結果は、BTIの防止戦略とBTIを起こした患者の治療法の最適化の両方に役立つだろうと述べている。
doi:10.1038/s41591-022-01840-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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