微生物学:DNA解析によって示された黒死病の地理的起源
Nature
2022年6月16日
14世紀に死亡した7人のDNA解析が行われて、黒死病が中央ユーラシアで発生した可能性が示唆された。この研究について報告する論文がNature に掲載される。
ペスト菌を原因とする黒死病は、西暦1346〜1353年までユーラシア全土に蔓延し、人口の最大60%が命を落としたと推定されている。黒死病の地理的起源については、過去の記録、古代DNA、現代のゲノミクス技術を用いた大掛かりな研究が行われたにもかかわらず、依然として確かなことが分かっておらず、西ユーラシアから東アジアにわたる数々の発祥地が可能性として提唱されている。
今回、Johannes Krause、Philip Slavinたちは、現在のキルギス共和国にあるイシク・クル湖が、14世紀の黒死病流行の発祥地であった可能性について調べた。チュイ渓谷にあるカラ・ジガチとブラナという2つの近隣の墓地から得られた考古学的証拠から、1338〜1339年までに埋葬された遺体の数が突出して多いことが判明し、一定数の墓石には「疫病」が死因だと記されていた。
Krauseたちは、今も残っている発掘に関するアーカイブデータを翻訳して解析し、その結果と2つの墓地に埋葬されていた7人の古DNA解析の結果を統合した。その結果、DNAサンプルのうち3つからペスト菌の痕跡が発見され、この疫病の流行にペスト菌が関与していたことが示唆された。Krauseたちは、今回発見されたペスト菌のゲノムが、単一の菌株のゲノムであり、この疫病流行の起源に共通に関連付けられる1つの多様化事象の最終共通祖先だとする考えを示している。また、この地域に現存するペスト菌株との比較が行われ、この地域が、古いペスト菌株の発祥地であることが示された。Krauseたちは、過去のデータと人工遺物(墓石の碑文や秘蔵されていた硬貨など)に基づいて、この地域にはユーラシア全土の各地域との交易に依存した多様な共同体があったとする学説を提唱しており、このことが、14世紀に黒死病が蔓延した一因となった可能性があるという考えを示している。
doi:10.1038/s41586-022-04800-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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