考古学:乳糖を消化できるようになるまで長い間にわたって動物の乳を飲んでいた古代人
Nature
2022年7月28日
先史時代のヨーロッパの人々は、乳糖を消化する酵素の遺伝子を持つようになるまでの数千年間にわたって家畜の乳を飲んでいた可能性のあることを示唆した論文が、Nature に掲載される。この知見は、動物の乳の消費と乳糖耐性の進化を解明する新たな手掛かりとなる。
ラクターゼは、乳に含まれる乳糖を消化する酵素で、古代人が動物の乳を消費したことは、成人におけるラクターゼ活性の持続性の進化に重要な役割を果たしたと考えられている。しかし、動物の乳の消費量は、地域や時代によって大きく異なるため、この点に関しては、かなり不確かな点が残っている。今回、Richard Evershedたちは、酪農業とラクターゼ活性の持続性の共進化をさらに詳しく調べるため、554か所の考古学的遺跡から採取した陶器の破片1万3181個から得られた動物性脂肪の残渣(6899点)を分析して、先史時代の動物の乳の消費に関する包括的な地図を作製した。ヨーロッパでは新石器時代(紀元前7000年頃~)以降に動物の乳の利用が広まったが、地域や時代によって差があったことを示唆する証拠が得られた。また、Evershedたちは、以前に発表された先史時代のヨーロッパ人とアジア人(合計1786人)の古代DNAデータに基づいて、ユーラシア人におけるラクターゼ活性持続性に関連する主な遺伝子変異体の発現頻度を経時的に調べた。その結果、ラクターゼ活性の持続性は、紀元前4700~4600年頃に初めて検出されてから約4000年後の紀元前1000年頃までは一般的でなかったことが示された。
まとめると、これらの知見は、先史時代のヨーロッパで、大部分の人々が乳糖不耐症であった頃に動物の乳が広く使用されていたことを示している。このことから、動物の乳の消費がラクターゼ活性持続性の主たる要因なのかという疑問が生じる。今回の研究では、遺伝データと考古学データのモデル化も行われたが、Evershedたちは、動物の乳の消費とラクターゼ活性持続性の増加との強い関連が、これらのデータに示されていないと付言している。むしろ、飢饉や病原体への曝露を示す指標の方が、ラクターゼ活性持続性の進化をよりよく説明していた。Evershedたちは、今回の知見は、ラクターゼ活性持続性の遺伝子の進化過程についての通説に異論を唱えており、妥当と思われる他の仮説に関する今後の研究に新たな手掛かりをもたらしたと結論付けている。
doi:10.1038/s41586-022-05010-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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