食物学:核兵器の爆発による世界的な飢饉とそれに伴う死亡者数のモデル化
Nature Food
2022年8月16日
核兵器の爆発と、その結果としての大気中への煤(すす)の注入が、世界的な食料不足と飢饉に関連した死亡者数に及ぼす影響を6つのシナリオで分析したモデル研究の結果を報告する論文が、Nature Food に掲載される。
核兵器の爆発は、大規模火災を引き起こし、大気中に煤を注入し、太陽光が地表に届かないようにし、食料生産を抑制すると考えられる。その結果生じる食料不足の規模は、気温の低下幅、降水量と地表面日射量の変化に左右される。こうした変化は、上層大気に放出される煤の量によって決まる。
今回、Lili Xiaたちは、核武装国が報告した武器備蓄に基づいた大気中への煤注入シナリオ(6種類)を適用して、核戦争が1週間続いた後に主要作物と野生の状態で捕獲される海産魚類の供給量とその他の食料と家畜の生産量に生じる影響をモデル化した。そして、Xiaたちは、これらのデータを用いて、備蓄食料が枯渇した後の世界のカロリー供給量を算出した。その結果、各種緩和策(食品廃棄物の削減や主に動物用飼料やバイオ燃料として栽培された作物を人間の食用に転用すること)を講じても、ほとんどの国で、作物生産量の減少分を家畜の生産量や水生生物性食品の生産量によって埋め合わせることはできないと予測している。核兵器の爆発によって5テラグラム(5兆グラム)を超える煤が生成されれば、ほぼ全ての国で大規模な食料不足が起こる可能性が高いと予測されている。Xiaたちは、インド・パキスタン間の核戦争を原因とする飢饉による死者が、戦争勃発後2年間で25億人に達すると推定している。また、米国とロシアの核戦争の場合には、飢饉に関連した死者は50億人に達する可能性がある。
Xiaたちは、これらの知見は、核戦争が地球の健康と人間の健康に非常に大きな影響を及ぼすことだけでなく、核兵器の使用禁止を目指した国際協力の重要性を示していると結論付けている。
doi:10.1038/s43016-022-00573-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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