考古学:古代エジプトの遺体防腐処置に関する新知見
Nature
2023年2月2日
古代エジプトでさまざまな人体部位の防腐処置に使用された化学混合物の具体的な配合を示した論文が、今週、Natureに掲載される。この知見は、古代エジプトの防腐処置作業場の分析に基づいており、古代エジプトのミイラ製作に関係する数々のプロセスに関する我々の知識を深めるものといえる。
古代エジプトのミイラ製作は、長期間を要する複雑な過程で、さまざまな防腐処理物質が用いられた。防腐材料に関する現在の我々の知識は、主に古代の文献とエジプトのミイラの残留有機物分析から得られている。これまでの分析で、防腐処置に使用されるさまざまな物質が特定されたが、それぞれの構成要素がミイラ製作過程において果たす役割と手順の全体像については、ほとんど解明されていない。
今回、Maxime Rageot、Philipp Stockhammerたちは、エジプトのサッカラにあるエジプト第26王朝時代(紀元前664~525年)の防腐作業場の遺跡から回収された陶製容器(31点)を分析した。これらの容器には、防腐処置の指示(例えば「頭部に塗布すること」や「これを使って包帯/防腐処置をすること」など)や防腐処理物質の名称が彫り込まれており、防腐処理物質の残留物も見つかった。著者たちは、これらの情報を総合して、ミイラ製作の際にどのような化学物質が使用され、それらがどのように混合され、命名され、適用されたかを解明した。例えば、頭部の防腐処理用として使用された3種類の混合物(エレミ樹脂、ピスタシア樹脂、ビャクシンやイトスギの副産物、蜜蝋などの物質が含まれていた)と身体の洗浄や肌を柔らかくするために使用された他の混合物が見つかった。
また、残留有機物分析によって特定された混合物と容器に彫り込まれた表示を比較したところ、通常「ミルラ」や「香」と訳されている古代エジプト語の「アンティウ」が、この作業場では、単一の物質ではなく、芳香のある樹木の油やヤニと獣脂の混合物を表していたことが判明し、「ミルラ」や「香」が誤った訳語とされる場合のあることが明らかになった。
また、防腐処理物質の多くがエジプトの国外からもたらされたことも明らかになった。例えば、ピスタシア製品やビャクシン製品はレバント地方から持ち込まれた可能性が非常に高く、エレミ樹脂は南アジアや東南アジアの熱帯雨林に由来するものだった可能性がある。著者たちは、このことは、古代エジプトのミイラ製作が、地中海沿岸地域やさらに遠方との長距離交易を促進する役割を果たしたことを示していると結論付けている。
doi:10.1038/s41586-022-05663-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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