医学:レット症候群の新しい治療薬
Nature Medicine
2023年6月9日
新薬トロフィネチドの投与によってレット症候群の患者の症状が著しく改善することが、第3相臨床試験で示された。このデータによって、トロフィネチドはレット症候群の初めての治療薬として米食品医薬品局(FDA)に承認された。
レット症候群は、まれな遺伝性疾患である。<em>MECP2</em>遺伝子の変異によってタンパク質の機能が失われ、それが原因で主に女児と女性で神経の発達に影響が現れる。レット症候群の症状としては、言語コミュニケーションの喪失、微細運動技能と粗大運動技能の喪失に加え、行動障害、けいれん、胃腸障害などが見られる。しかし、こうした異常に対する有効な治療法はこれまでなかった。トロフィネチドは、脳に本来存在する増殖因子グリシン–プロリン–グルタミン酸に類似した合成薬で、症状を軽減する可能性があることが、レット症候群患者からなる小さなコホートでこれまでに行われた2つの第2相臨床試験によって明らかにされている。
J Youakimらは、トロフィネチド投与の効果と安全性を明らかにするため、第3相臨床試験となるLAVENDER研究を行った。レット症候群の女性患者187人が、トロフィネチドもしくはプラセボを12週間にわたって投与する2つのグループに無作為に振り分けられた。治療効果の判定は、RSBQ(Rett Syndrome Behaviour Questionnaire:レット症候群行動質問票)スコアを用いて行った。このスコアは、発声、顔の表情、視線、反復行動、呼吸、夜間の行動、気分など、レット症候群のさまざまな特徴を介護者が評価するものである。また、患者の症状が改善したか、それとも悪化したかを医師が評価するCGI-I(Clinical Global Impression-Improvement:臨床全般印象度-改善度)スコアも判定に使われた。そして、RSBQスコア、CGI-Iスコアの両方で明らかな改善が見られ、投与に関連した重篤な副作用は報告されなかった。
著者らは、トロフィネチドは比較的忍容性が高く、レット症候群に関連する重要な兆候や症状の改善に効果が見られると結論している。この結果を審査したFDAは、トロフィネチドをレット症候群の初めてで唯一の治療薬として最近承認した。しかし著者らは、この薬の長期の安全性を評価するには追跡調査が必要だと考えている。
doi:10.1038/s41591-023-02398-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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