微生物学:人体の分解を行う微生物が法医学の助けになるかもしれない
Nature Microbiology
2024年2月13日
ヒトの死体の分解に関係するマイクロバイオームの構成要素は、場所や環境条件に無関係で、普遍性があることを報告する論文が、Nature Microbiologyに掲載される。この知見は、有機物質を分解する微生物の関与にはよく保存された予測可能な順序があることを示しており、このことは法科学に大きな意味を持つ可能性がある。
分解とは、死んだ生物の生体物質を再利用して、植物生産力や土壌呼吸といった生物学的過程の燃料源とする基本的な過程である。分解の役割は、主として微生物である真菌と細菌が担っており、その過程は詳しく研究されているが、これまでの研究では主に死んだ植物のバイオマスの分解に焦点が合わせられていた。植物とは対照的に、ヒトを含む動物の死体には、分解しやすいタンパク質と脂質が豊富に含まれているが、それらが生物地球科学や周囲の生態学に与える影響はほとんど理解されていない。
今回、Jessica Metcalf、Zachary Burchmanらは、科学目的で献体されたヒトの死体36体の分解過程を追跡した。これらの死体は、温暖な気候または半乾燥気候の場所3カ所に、1カ所につき3体ずつ、春夏秋冬の四季ごとに静置された。そして死亡直後から21日間にわたり、死体の皮膚と周辺土壌の試料が採取された。著者らは、分解中のヒトの死体には、場所や機構、季節にかかわらず、普遍的な微生物共同体が存在することを発見した。これは、分解中以外の環境では滅多にないことで、死体の陸上での分解に特有のものであるようだ。
著者らが、死体に隣接する土壌のメタゲノムアセンブルゲノムとメタボロームのプロファイリングを用いて、真菌と細菌の相互作用ネットワークを再構築したところ、真菌と細菌が分解産物を代謝する際に資源を分かち合う様子が明らかになった。著者らは、昆虫が媒介者となって、分解中の死体から別の死体へとこれらの微生物を拡散する可能性を示唆している。
著者らは今回、死体分解する微生物の時系列データを、機械学習モデルと組み合わせて用いることにより、死亡後の経過時間を予測することもできた。これは、将来的に法科学に応用できる可能性がある。
doi:10.1038/s41564-023-01580-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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