Nature ハイライト 材料:曲げれば曲げるほど硬くなる 2006年4月27日 Nature 440, 7088 鉄床にのせてハンマーで叩くと鋼などの金属を硬く強くできることは、何世紀も前から鍛冶屋には知られていた。V Bulatovたちは今回、この硬化プロセスに関する従来の説明は、重要な要素を見逃していたことを明らかにしている。 金属が延性をもつのは、結晶構造中の転位とよばれる欠陥、すなわち規則正しく充填された原子の層の配列に乱れがあるためである。転位はファスナーのように金属結晶中をするすると移動し、そのため金属は応力を受けると変形する。しかし、例えばハンマーで叩いたり、繰り返し曲げたりすることで新たな転位が多く発生してその数が多くなり過ぎると、今度は転位どうしがからみ合って動かなくなる。 転位のからみ合いに関する以前の研究では、2本の転位がぶつかったときに起きることについて検討したものが多い。しかし、Bulatovたちは、3本以上の転位が衝突する場合もありうることを指摘している。彼らが行った金属の原子構造の計算機シミュレーションで、このような複数の転位の接合は、2本だけの転位の接合とは異なるふるまいをすることがわかった。2本だけの転位の接合は、「ファスナーを開く」ように動いたり別の場所で再形成されたりして、何らかの動きが可能なのに対し、3本の転位の接合はしっかり固定される。こうした三重接合がいったん形成されると、これをほぐすのは非常にむずかしいようだ。Bulatovたちによると、金属を繰り返し曲げることにより、このような多重接合が固定されたネットワークを作って徐々に蓄積されるのだという。 Bulatovたちは、金属モリブデンにおける転位を電子顕微鏡で画像化するという実験的研究で、今回の知見を裏づけている。彼らは、別々の3本の転位が衝突してからみ合うことによって形成された、4本の異なる転位線が出合っている接合箇所を数例見つけている。 2006年4月27日号の Nature ハイライト 認知:ムクドリはヒト言語の「文法」がわかる? 医学:危険がないわけではない 宇宙:巨大惑星がもつ自転軸傾斜の謎 材料:曲げれば曲げるほど硬くなる 細胞:胚性幹細胞に似た精巣細胞 目次へ戻る