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進化:謎の原索動物は遺伝子配置解明の鍵を握る?

Nature 431, 7004

原索動物のワカレオタマボヤOikopleura dioicaは、見た目は簡単そうだが、理解するまでには困難が伴う。これはオタマジャクシに似た小型の生物で、海に、マリンスノーとしても知られる大群で生息する。個体は米粒くらいの大きさで、粘液でできた壊れやすいクルミ大の「ハウス」の中で暮らし、その中を通る微粒子を漉しとって餌にしている。海洋学者の興味を引きつけるばかりでなく、進化生物学者の目を引く存在でもある。それは、我々ヒトを始め、なじみ深い動物のほとんどが含まれる大きなグループである脊索動物の中で、現在生き残っている最も原始的なものの1つだからで、未だに議論が続いている脊索動物の起源問題の手がかりが得られるかもしれない。 そして今回D Chourroutたちの報告により、ワカレオタマボヤの目新しい実体が明かにされた。彼らは、Hox遺伝子群について調べた。これは発生の際に体軸に沿って構造を指定していく遺伝子群だが、これまで調べられたどの生物でも、特定のHox遺伝子クラスター中での個々のHox遺伝子の並び方は、生物の体でそれらの遺伝子が発現される順番と一致していた。この原則はco-linearityと呼ばれている。ワカレオタマボヤでは、遺伝子の発現は予想通りに起こるが、Hoxクラスターが見られず、個々のHox遺伝子がゲノム全体に散在している。動物のボディープランの進化にco-linearityが重要であるとすれば、今回見つかった配置は、空の帽子からウサギを取り出すのに匹敵するマジックであるが、研究者はHox遺伝子の発現の原則について、見直しを迫られるかもしれない。

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